昨年のカタールW杯で悲願の優勝を成し遂げ、名実ともに世界最高のサッカー選手となったアルゼンチン代表のリオネル・メッシ。だが、その輝かしい栄光の裏に伸びる「影」はあまり知られていない。メッシは、故郷であるアルゼンチンの地方都市・ロサリオから世界の大舞台へと、いかにして駆け上がったのか。そこには、少年時代の恩人に対する裏切りがあった――。ジャーナリストの宮下洋一氏が「神になった男」の光と影を現地取材で描く、不定期連載第1回。(プロローグ回を読む)
2023年2月23日、東京からドイツのフランクフルトを経由し、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの空港に着陸するまで、およそ30時間。北半球から南半球へ。気温は、摂氏35度に迫っている。ギラつく太陽が熱かった。
私は今、高さ67メートルの石碑「オベリスコ」がそびえ立つ共和国広場にいる。2カ月ほど前、サッカーのワールドカップ(W杯)を制したアルゼンチン代表を祝う約500万人の群衆が、この場所を埋め尽くしたことは記憶に新しい。
町中には、水色と白の国旗が青空の中ではためき、同じ色のストライプのユニホームを誇らしげに纏う市民や観光客がいる。石壁には、「メッシ」、「カンペオン(王者)」、「オルグージョ(誇り)」の文字が溢れ返っている。
アルゼンチン代表が36年ぶりにもたらした興奮と、背番号10を背負うリオネル・メッシへの熱愛は、まだしばらく収まりそうもなかった。マラドーナからメッシへ。この地で今、神の伝説は、35歳の現役選手へと引き継がれようとしていた。
共和国広場周辺で商店を営むマクシミリアノ・モラ(20)は、同世代で活躍した選手ではなく、メッシを誰よりも尊敬しているようだった。
「W杯の優勝で、感動と涙が止まらなかった。メッシは、僕のスターさ。人として、選手として、すべてを与えてくれた。これ以上、彼に望むことはないよ。あとはキャリアを終えるまで、サッカーを楽しんでほしい」
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