彼らも最新技術を備えた人間だった
ホミニン(ホモ・サピエンス以外の絶滅した人類)というのは、どうにも気になる存在だ。初期のホモ・サピエンスは、きっと面白い体験をしたにちがいない。どこか知らない土地に旅して、そこで暮らす別の人類種と出会う。そのときどんなやり取りがあったのか。なかでもネアンデルタール人は別格の存在だ。最近(4万年前)まで生きていたのに、なぜか消えてしまった隣人には、そこはかとない悲しみとロマンが漂い、他人事とは思えないのである。
本書を読むと、ネアンデルタール人に対する見方は一変する。とにかく細かな科学的知見を集積することで、ここまで昔の人類の実態に迫れるのか、ということには驚くばかりだ。彼らの住居、彼らの骨、石器、地質等々から浮かびあがる彼らの身体、暮らしぶり、世界観、そして精神の内面。読めば読むほど我々と彼らとの間にどれほどの違いがあったのかわからなくなる。象徴的思考能力についてもおなじだ。たとえば赤い顔料で彩色されたネアンデルタール人の貝殻がホモ・サピエンスの遺跡で見つかったら、〈その彩色や加工を象徴的な行動と見なすことに異議を唱える人はいないだろう〉。死者に対する扱いも、ホモ・サピエンスの特徴とされる豪華な副葬品が登場するのはずいぶんあとの話で、その時代のホモ・サピエンスは彼らと似たような遺物しかのこしていないのだという。
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source : 文藝春秋 2023年5月号