時刻表に夢中になった

竹本 勝紀 銚子電鉄社長
エンタメ 読書

 今年7月で銚子電鉄は開業100周年を迎えます。第三セクターによる運営の鉄道が多いなかにあって当社は完全民営です。もちろん公的補助もいただいていますが、基本的には自助努力でなんとかしないといけない。つまり、資本の論理から逃れることはできず、当社にとって収益の確保こそが至上命令といえます。

 これまで「ぬれ煎餅」「まずい棒」(経営がまずいので)など、お菓子の製造・販売といった副業で経営危機を乗り切ってきました。おかげさまで2021年度には6年ぶりに黒字を達成しました。

 ただし、これから調子に乗って金儲けに走るわけではありません。余計なお金は使わず、必要な設備投資をしながら、100年間当社を支えてくださった地域の皆様、利用者の皆様への恩返しのためにお金は使うべきだと、常々心がけています。

竹本勝紀氏 ©文藝春秋

 私のこうした経営指針は、社会学者・マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫)に通ずる部分があるように思えます。慶應義塾大学経済学部に通っていた頃、社会思想や国際問題に関心のあった私は、ドイツ語の勉強も兼ねてウェーバーの原典を、仲間と精読していました。

 ウェーバーは同書のなかで、キリスト教プロテスタント・カルヴァン派の、営利追求を敵視する考えが、逆説的に経済を発展させたのだと主張しています。

 一生懸命働いて得た利益は、与えられるものであり、みんなで分かち合うもの。当社では皆さまのあらゆる合格を祈願し合格祈願切符を販売しています。銚子電鉄線には「本銚子駅」という駅がございます。(1)本銚子(本調子)行き切符 (2)本銚子発銚子駅行きの「上り銚子」(上り調子)切符 (3)「銚子~本銚子」往復切符と、縁起の良い3枚セットで840円。お買い求めいただけますと、皆さまには御利益が、当社にはご利益(りえき)があるのです(笑)。

 幼い頃から電車が好きでした。小学校3年生のとき、電車が好きだと言ったら、父親の税理士事務所の事務員が時刻表をプレゼントしてくれたんです。「この世にこんなに面白い書物があるのか!」と、夢中になりました。時刻表をめくって色んな路線や駅名があることを知り、風邪をひいたときに3日間で東京─西鹿児島間の駅を全て覚えました。表定速度計算に興じて特急より速い急行があるのを探すのも楽しかった。当時は札幌駅~旭川駅間を運行していた「急行さちかぜ」が速かったです。

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source : 文藝春秋 2023年5月号

genre : エンタメ 読書