ユーモアの効用

日本人へ 第130回

塩野 七生 作家・在イタリア
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 どうやら私が書く作品は、作者が意図した以上にまじめに受けとられているらしい。日本では、歴史とは学ぶために読むもので、楽しむために読む人が少ないということか。

 大新聞に載る書評も、きちんと書かれた作品に対してはまじめな論評で応ずるべきと信じているのか、まっとうな評価ばかりである。それを読む私が思わず、面白く読んだの、どうなの? と問い返したいくらい。つまり、書評してくれたこと自体はありがたいのだが、その書評は、三年かけて書きあげた作品を刊行したばかりで疲労困憊の状態にいる私を、嬉しがらせ元気づける役割までは果してくれないのである。

 それらに比べれば、ブログの匿名批評のほうがよほど正直だ。発表の場が大新聞でなく、しかも無記名、であるためか。そのうちの一つを紹介したい。刀折れ矢尽きた、という状態ではあっても生涯最後の一作を書くためにまずは体力を回復しなければ、と思っている今の私を面白がらせ、元気づけてくれたのがこれだったからである。

 アマゾンに投稿された匿名コメントより

 ――『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』上下巻は、内容は「一神教の弊害との戦い」というハードなものだが、非常に面白い。それも、思わず笑ってしまうという方向にも面白い。こんなに読者を「笑わせる」塩野作品はちょっと記憶にない(笑)。本書を読んでいて十分に一回くらいは笑ったような。ぱっと思い浮ぶだけでも、

 ・破門(一度目)――もうこれを見ただけでも笑ってしまった。(二度目、三度目もあるのかよ!)

 ・初夜の翌日、再婚相手ヨランダの女官を誘惑(大笑いした)。あれからどうなったのだろうと思いきや、下巻を読むと女子が誕生していたり(爆笑した)

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source : 文藝春秋 2014年3月号

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