と言っても、サッカーの話である。
サッカーにかぎれば、文句なしの強豪は次の三つの国だろう。世界チャンピオンの栄冠に五度も輝いたブラジルを筆頭に、栄冠に輝くこと四度のイタリアと三度のドイツがつづくというわけ。マラドーナ、メッシと超のつくスター選手を輩出してきたアルゼンチンでも世界王座に登れたのは二度でしかなく、イギリス、フランス、スペインは一度でしかない。
ところが、ヨーロッパのサッカー強国では一、二を争うドイツなのに、他の国々には勝てても、相手がイタリアになるとなぜか勝てないのである。
この二国の対戦が世界規模のビッグマッチであることを強く印象づけたのは、西暦一九七〇年にメキシコで開催された世界選手権だが、あのときは準決勝で対決したドイツとイタリアは延長に次ぐ延長をシーソーゲームで戦い抜き、サッカーファンではない人までもテレビの前に釘づけにしたものだった。結果は、四対三でイタリアの勝ち。その後の決勝戦ではイタリアはペレ率いるブラジルに手もなく敗れるが、メキシコシティのサッカー場の壁に「PARTIDO DEL SIGLO(世紀の試合)」と刻まれた記念板で讃えられたのは、イタリアとドイツが死闘をくり広げた準決勝のほうであった。
あの年から今日までの四十三年間、イタリアとドイツは、計十九回対戦している。対戦成績は、イタリアの勝利は七回、ドイツが勝ったのは五回、引き分けが七回。この数字だけ見ると、世界チャンピオン二位と三位の国の対戦成績にふさわしいように見える。
ところがこの十九回の対戦の中には十二回もの「親善試合」もふくまれているのだ。そして、この種の試合の対戦成績になると、イタリアの勝ちが三回であったのに対し、ドイツが勝ったのは五回になり、引き分けは四回。
ただし、親善試合とは、ナショナルチームをまかされた監督が、公式戦ともなればベンチ要員で終わりがちの選手たちにも機会を与えることで、チーム全体の強化の道を探る意味のほうが大きい。ゆえに、親善試合と真剣勝負を同一視することはできないのである。それで、十九戦から親善試合の十二戦を引いた真剣勝負の七試合の成績が問題になるわけだが、そうなると、イタリアの勝利は四度で引き分けが三度となり、ドイツは一度も勝っていない。つまりドイツは、四十三年間もの歳月、イタリアには負けつづけてきたということになる。イタリアとの試合はドイツの選手たちにとって、彼らの一人が告白したように、「悪夢」になったらしい。なにしろ、重要な試合になるや、あの何ごとにもだらしないイタリア人に半世紀近くも勝てないでいるのだから。
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source : 文藝春秋 2014年2月号