昨日、EUの今後を決める選挙がヨーロッパ全土で行われた。その結果は日本に報じられたに違いないので、繰り返さない。だが、ヨーロッパに住む日本人の一人として、われらが日本に学ぶべきことがあるとしたらそれは何か、については考えたのだった。
一、人間とは、いかに高邁な理想をかかげられてもそれにまで心が及ぶのは、一応にしろ政治的にも経済的にも不安を感じないですむ場合、でしかないこと。
昨今のヨーロッパ各国では、直訳すれば「EU懐疑派」と呼ばれる党派や運動が雨後の筍の如く輩出し、反ヨーロッパ連合的な言辞を連発しては広場に人を集めていたのである。極右に分類する人が多いのは、フランスにのみ注目しているからだろうが、イタリアの「五ツ星」のように既成権力はすべて人民裁判にかけると高言していた党派もあれば、ギリシアのように極左もいる。つまり、右左に関係なく既成政党に不満な人々を集めるのに成功した、ということだろう。
それで、反既成政党でその結果反EUであるこれらの党派の今回の投票結果だが、ギリシアとデンマークとフランスでは一位。イタリアでは、古い革袋にレンツィという新しい酒を入れた既成政党に大差をつけられはしたが、得票率ならば二位。与野党ともが票を減らしたスペインでは三位。この種の「EU懐疑派」の台頭を心配視しないで済んだのは、実にドイツだけであった。EUには片足しか突っこんでいないイギリスでも生れたばかりの英国独立党が第一位に躍り出たが、他の国々の事情を見れば英国でも、与党野党ともの既成政党による国内政治の失敗に、有権者が否と答えた結果かと思う。
要するに、ヨーロッパ連合という、二度とヨーロッパ内で戦争を起さないという高邁な理想をかかげてスタートした組織の今後を決める選挙だというのに、ヨーロッパ人は自国の内政への評価如何で答えたということになる。
とはいえ、この反応は健全とするしかない。判断を下す知力もそれを進めていく気力も、体力のささえがあってこそ十全に発揮できるのが、人間性の現実。そして体力とは、経済力である。人間、明日以後も食べていけるかどうかの不安の前には高邁な理想も世界での地位向上も知ったことではない、と思うほうが自然なのである。
二、指揮系統が明確でなく、それゆえに責任が誰にあるかも明確でない組織が、機能していくこと自体が不可能事であったこと。
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source : 文藝春秋 2014年7月号