疑惑の細胞のこと

日本再生 第38回

立花 隆 ジャーナリスト
ニュース 社会 サイエンス

 STAP細胞はあるのか、ないのか。小保方さんはウソをついているのか、いないのか。このところ、週刊誌とネットはこの話題でもちきりだった。四月九日に小保方さんが開いた記者会見と、それから七日後に開かれた、小保方さんの上司、笹井芳樹理研CDB副センター長の記者会見は、いずれもTVカメラがズラリとならぶ会見となった。テレビと新聞の報道は二日間にわたってつづき、雑誌メディアとネット上でのああでもないこうでもないの大議論はいまだにつづいている。大報道のあと、小保方、笹井両氏の主張に納得した人もいれば、納得できなくて、いまだに二人を非難ないし糾弾している人たちも少なからずいる。

 ここにこんな話題をもちだしたのは、私も遅ればせながら、二人を批判する列に加わろうとしてのことではない。私は実はそれほど倫理における厳格主義者ではない。厳格主義者なら「こんなの絶対ダメ」と叫ぶ場面でも、それなりの弁解が成り立つならまあ許してしまう人間である。絶対の真実などわかりっこないと思っているから、ほどほどの真実がつかめればいいと思っている。私はもともとが文学畑出身の人間であるから、過ちを犯す人間を糾弾するより、そういう人間の心の内側をさぐるほうに興味がある。

 今回の事件、世の関心がこれほど高まったのは、STAP細胞という、山中伸弥博士のiPS細胞にも比肩する不思議な細胞が発見されたことにあった。あらゆる細胞はDNAにプログラムされた予定運命から逃れられないという生物学の常識に反して、iPS細胞はわずか四つの遺伝子の導入だけで予定運命を書き換えてみせた。STAP細胞は同じことを細胞の生育環境に一定のストレスを与えるだけで実現したとされた。しかもその大発見をしたのがその辺の若い女の子風の女性研究者だったことに、皆驚いた。

 大衆レベルで世の関心が大きくかきたてられた理由の一つに、週刊誌が書き立てたスキャンダルがあった。すなわち小保方さんと、上司の間に不適切な関係があり、それによって小保方さんは不適切な利益(地位と金銭の)を得ているのではないかという話だ。

 STAP細胞の有無に関してはこれから一年くらいの時間をかけて理研内部の特別チームが小保方さんがいう方法論で本当に作れるのかどうかを検証することになった。これからしばらくの間、その検証結果を待たなければ確かなことは何もいえない状態がつづくことになる一方、先の小保方さんの会見では、不適切問題で、次のようなやりとりも行われた。

 ――週刊誌等では、笹井先生と不適切な関係にあったんじゃないかということを報道されているんですけれども?

「そのようなことはありません。そのような報道が出て本当に戸惑っております」

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2014年6月号

genre : ニュース 社会 サイエンス