STAP細胞はあるのか、ないのか。小保方さんはウソをついているのか、いないのか。このところ、週刊誌とネットはこの話題でもちきりだった。四月九日に小保方さんが開いた記者会見と、それから七日後に開かれた、小保方さんの上司、笹井芳樹理研CDB副センター長の記者会見は、いずれもTVカメラがズラリとならぶ会見となった。テレビと新聞の報道は二日間にわたってつづき、雑誌メディアとネット上でのああでもないこうでもないの大議論はいまだにつづいている。大報道のあと、小保方、笹井両氏の主張に納得した人もいれば、納得できなくて、いまだに二人を非難ないし糾弾している人たちも少なからずいる。
ここにこんな話題をもちだしたのは、私も遅ればせながら、二人を批判する列に加わろうとしてのことではない。私は実はそれほど倫理における厳格主義者ではない。厳格主義者なら「こんなの絶対ダメ」と叫ぶ場面でも、それなりの弁解が成り立つならまあ許してしまう人間である。絶対の真実などわかりっこないと思っているから、ほどほどの真実がつかめればいいと思っている。私はもともとが文学畑出身の人間であるから、過ちを犯す人間を糾弾するより、そういう人間の心の内側をさぐるほうに興味がある。
今回の事件、世の関心がこれほど高まったのは、STAP細胞という、山中伸弥博士のiPS細胞にも比肩する不思議な細胞が発見されたことにあった。あらゆる細胞はDNAにプログラムされた予定運命から逃れられないという生物学の常識に反して、iPS細胞はわずか四つの遺伝子の導入だけで予定運命を書き換えてみせた。STAP細胞は同じことを細胞の生育環境に一定のストレスを与えるだけで実現したとされた。しかもその大発見をしたのがその辺の若い女の子風の女性研究者だったことに、皆驚いた。
大衆レベルで世の関心が大きくかきたてられた理由の一つに、週刊誌が書き立てたスキャンダルがあった。すなわち小保方さんと、上司の間に不適切な関係があり、それによって小保方さんは不適切な利益(地位と金銭の)を得ているのではないかという話だ。
STAP細胞の有無に関してはこれから一年くらいの時間をかけて理研内部の特別チームが小保方さんがいう方法論で本当に作れるのかどうかを検証することになった。これからしばらくの間、その検証結果を待たなければ確かなことは何もいえない状態がつづくことになる一方、先の小保方さんの会見では、不適切問題で、次のようなやりとりも行われた。
――週刊誌等では、笹井先生と不適切な関係にあったんじゃないかということを報道されているんですけれども?
「そのようなことはありません。そのような報道が出て本当に戸惑っております」
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source : 文藝春秋 2014年6月号