悲喜劇のEU

日本人へ 第147回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会 政治 国際

 民主主義はけっこうな考え方だが、そのけっこうな思想から人々の心が離れてしまうのは、実際に問題の解決となるといっこうに機能しないからである。

 ギリシア問題、難民問題、と難題が山積みの現在のEUを見ていると、民主主義者の私でも絶望してしまう。

 EUとは、ヨーロッパ諸国の連合体である。第一次と第二次の大戦によってすさまじい打撃をこうむったヨーロッパが、二度とヨーロッパの国々の間では戦争をしない、という一点で始まった共同体だから、今に至るまでの七十年間戦争はしていない以上、当初の目的は成し遂げられたと言ってよい。

 だが、これ以外の課題となると、ガタピシばかり起している。そのヨーロッパに半世紀も住んでいる私の眼から見ると、要因は次のいくつかに要約できるかと思う。

 第一は、当初の六カ国から今では二十何カ国かに増えてしまったEUだが、二十数カ国がまとまれば相当な影響力を発揮できるはずなのに、一国でも反対すれば、いかなる政策も成立は不可、となっていること。多数決でさえもないのだ。全員一致なんて、マンションの管理委員会でさえも不可能なのに。

 また、人口五千万の国でも人口五百万の国でも、EUの決定に投ずる票数は、一票で同じ。マンションでも票数は、各住戸の占める面積によって差がつけられているのである。

 国内総生産に対する財政赤字の割合も、国別の人口では差をつけてはいけないという理由で、どの国でも同じに三パーセント以下が要求されている。

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source : 文藝春秋 2015年8月号

genre : ニュース 社会 政治 国際