イタリアでは、でもとすべきかもしれないが、新聞の売れ行きは落ちる一方で、テレビの視聴率も下がる一方になっている。ちなみに新聞は宅配ではなく、毎朝家を出て近所のスタンドに行って買う。ゆえに毎朝新聞を読むのは相当に自主的な行為で、それをしない人が多くなると大新聞でも廃刊になる。
この販売数低下の原因を探るのに、イタリア人は、「ボニズモ」という新語を発明した。新造語だから日本にある「伊日辞典」にはのっていないが、「イイ子主義」とでもいう意味である。
新聞に記事を書く記者、雑誌に寄稿する学者、テレビでコメントする有識者、の大半がイイ子主義に陥ったあげく、ぶつのは正論ではあっても一般市民の実感から離れた意見ばかり。それで、多くの人が、読みもしなければ観もしなくなったのだという。
ニュースを知りたければ、スマホで簡単にわかる。アナログ人種には、国営放送RAIのチャンネルの一つが、四六時中ニュースを流しているし、画面の下に流れるテロップでは、東京の株式市場の終値まで教えてくれる。RAIの番組では、このチャンネルだけは視聴率が高い。
つまり、新聞が売れなくなりテレビの討論番組の視聴率が激減したのは、情報はタダ、だからというよりも、有識者顔をしたいインテリたちの御託宣はもうけっこうという、一般市民の想いの反映だというのだ。例をいくつかあげると、次のようになる。
難民問題――イタリアには、北アフリカから地中海に出て船に救助される難民と、トルコとギリシアを通過してくる難民が、一年を通して十万人以上入ってくる。海伝いと陸伝いの割合は、七対三というところ。以前ならば、食べていけなくなったからという経済難民だったので、強制的にしろ帰すことはできた。だがこの頃は、国にいたら殺されるという政治難民が多数になっている。中央アフリカや中東の内戦がいっこうに収まらないからだが、政治難民は受け入れねばならないというのが国連の方針だ。
有識者たちは言う。受け入れは人道上からも当然であり、われわれイタリア人もかっては、アメリカや南米に大量に移民したではないかと。
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source : 文藝春秋 2015年7月号