「イイ子主義」と一般人の想い

日本人へ 第146回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会 国際 メディア

 イタリアでは、で()とすべきかもしれないが、新聞の売れ行きは落ちる一方で、テレビの視聴率も下がる一方になっている。ちなみに新聞は宅配ではなく、毎朝家を出て近所のスタンドに行って買う。ゆえに毎朝新聞を読むのは相当に自主的な行為で、それをしない人が多くなると大新聞でも廃刊になる。

 この販売数低下の原因を探るのに、イタリア人は、「ボニズモ」という新語を発明した。新造語だから日本にある「伊日辞典」にはのっていないが、「イイ子主義」とでもいう意味である。

 新聞に記事を書く記者、雑誌に寄稿する学者、テレビでコメントする有識者、の大半がイイ子主義に陥ったあげく、ぶつのは正論ではあっても一般市民の実感から離れた意見ばかり。それで、多くの人が、読みもしなければ観もしなくなったのだという。

 ニュースを知りたければ、スマホで簡単にわかる。アナログ人種には、国営放送RAIのチャンネルの一つが、四六時中ニュースを流しているし、画面の下に流れるテロップでは、東京の株式市場の終値まで教えてくれる。RAIの番組では、このチャンネルだけは視聴率が高い。

 つまり、新聞が売れなくなりテレビの討論番組の視聴率が激減したのは、情報はタダ、だからというよりも、有識者顔をしたいインテリたちの御託宣はもうけっこうという、一般市民の想いの反映だというのだ。例をいくつかあげると、次のようになる。

 難民問題――イタリアには、北アフリカから地中海に出て船に救助される難民と、トルコとギリシアを通過してくる難民が、一年を通して十万人以上入ってくる。海伝いと陸伝いの割合は、七対三というところ。以前ならば、食べていけなくなったからという経済難民だったので、強制的にしろ帰すことはできた。だがこの頃は、国にいたら殺されるという政治難民が多数になっている。中央アフリカや中東の内戦がいっこうに収まらないからだが、政治難民は受け入れねばならないというのが国連の方針だ。

 有識者たちは言う。受け入れは人道上からも当然であり、われわれイタリア人もかっては、アメリカや南米に大量に移民したではないかと。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2015年7月号

genre : ニュース 社会 国際 メディア