残暑の憂鬱

日本人へ 第150回

塩野 七生 作家・在イタリア
ニュース 社会 国際 歴史

 人間世界に次々と生れてくる難問題も、その性質から二つに分けられるのではないか。

 第一は、当事者たちに、解決への意志があり、しかも感情的でなくそれを進めていく冷徹さがある場合。

 第二は、当事者の意志には関係なく、現在の状況では根本的な解決は望み薄、とするしかない場合。

 第一の場合の例としては、「なぜ日本は負けるとわかっていた戦争を始めたのか」があげられるだろう。

 これについて論ずるのは、戦後七十年とて日本では流行りらしいが、私の思うにはある現実が欠けている。それは、戦争とは生きもので、敗北で終わったいかなる戦争も、「負けるとわかっていた」とは百パーセント言えないこと。「生きもの」とは、当初想定していたとおりにはことは運ばなかったということだが、それは戦争にかぎらず結婚にも言える。

 失敗の原因を解明しようとすること自体はよい。だが、そこで留まらず、失敗してもどうすればより被害を少なくして立ち直れるか、も問題にすべきと思うのだ。言い換えれば、落ちてしまったとしても足から落ちるにはどうするか、である。

 先日露見したフォルクスワーゲン問題だが、あれを知ったときは然とした。なぜドイツ人は、落ちるとなると頭から落ちてしまうのかと。おそらくドイツ民族は、あらゆる面で優れた才能に恵まれていながら、落下には慣れていないのかも。反対にイタリア人は、慣れすぎ(、、)である。落ちても足から落ちられるんだからと思っているので、落ちないで済むための配慮さえも怠ってしまう。

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source : 文藝春秋 2015年11月号

genre : ニュース 社会 国際 歴史