リーマンショックに襲われた時、米政府の悪夢は、中国が外貨準備に組み入れている1兆ドルを超える米ドル債を大量に売却するのではないかという点にあった。
ヘンリー・ポールソン米財務長官は、旧知の王岐山副首相と周小川中国人民銀行総裁に電話を入れ、中国がドル債を売らないよう求めた。中国側は「売ることはしない。しかし、他が買い始めるまで、買うこともしない」との方針で臨むとポールソンに伝えた。
そのちょっと後、ポールソンは北京を訪問した。そこで、心穏やかならぬ情報を耳にした。
ロシア側が中国側に政府首脳レベルで接触し、米国政府がファニー・メイ(連邦住宅抵当金庫)支援の緊急措置を取るよう危機感を持たせるため、中ロが提携して政府保証のファニー・メイの社債を売却しないか、と持ちかけてきたというのである。ロシア、中国ともに巨額のファニー・メイ社債を保有していた。
ポールソンがこのほど出版した回想録(『Dealing with China』)で明かしているエピソードである。
「このとき、ロシアがどれほど真剣だったかは定かでない。しかし、彼らがわれわれを試そうとするかもしれないと考えるだけで、夜も眠れないほどぞっとした」
しかし、中国は、ロシアの誘いかけに乗らなかったし、危機が終わるまで、ドル債を保持し続けた。中国はギリギリのところで、米国を支えた。米国のためにそうしたのではない。自らを助けるには米国を支えるしか方法がなかったのである。
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source : 文藝春秋 2015年8月号