イランの核開発をめぐる合意によって、イランは向こう15年間、核兵器用の高濃縮ウランやプルトニウムを製造・取得せず、その代わりに、国連安全保障理事会や米、欧州は、同国に課している経済制裁を段階的に解除することになった。
しかし、長期的にはイランが「核保有近接国」(nuclear threshold power)として孵化する可能性を孕んでいる。イスラエルがなおこの合意に反対しているのも故なきことではない。
サウジアラビアもライバル、イランと米国の新デタントに内心、穏やかではない。イラクがシーア派主体の政権となって以来、スンニー派の抵抗が激化し、イラクは破綻国家同然となりつつあり、シーア派の本尊、イランとスンニー派の守護神、サウジアラビアの“緩衝地帯”の機能を失いつつある。イエメンでは両国の代理戦争が繰り広げられている。
イランの強みは、イラン高原をイラン単独で占めている地形学的な安定性とかつてこの地域一帯に帝国を築いた歴史の記憶と7900万人の人口である(サウジアラビアの人口は3100万人)。
イランはまた、その気になればいつでもホルムズ海峡を閉鎖することができる地の利を有している。
もう一つ、中東の戦略的要地はアラビア半島の付け根である。地政学の開祖マッキンダーはかつてここをユーラシアとアフリカを結ぶ陸橋と名付けた。ここを支配する者が、中東を支配する。
現在、サウジアラビア(とエジプト)がそこを抑えているが、もし、将来、サウジアラビアが政権危機、さらにはイラクのように液状化した場合、そこには権力の真空が生じる。
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source : 文藝春秋 2015年10月号