米政府は、中国が南シナ海で建設している人工島に関する中国の領有権を認めず、航行の自由を貫徹させるため、この“島”の12海里(約22キロ)内に第7艦隊の艦船、または偵察機を進入させることを決めた。この作戦は、中国に南シナ海を“軍事化”させないための抑止力を企図している。
ただ、それが本当に抑止力として働くかどうかは、まだ分からない。中国がそれを挑発と受け止め、ADIZ(防空識別圏)を設置するなどむしろ逆に“軍事化”を急ぐ口実に使う可能性もある。そうなった場合、抑止に失敗したことになり、米中は軍事態勢強化を競う「安全保障のジレンマ」に陥る危険性がある。
「日本が危険にさらされたときは日米同盟が完全に機能するということを世界に発信することによって、紛争を未然に阻止する力、すなわち抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていくと考えます」
安倍首相は安保法制の目的について衆議院本会議でそう答弁した。中国と名指しはしていないが、それが狙いであることは明白である。
同盟とは、究極的には、危機に際して、命をかけて相手の国を守る覚悟があるかどうかでその信頼性、さらには抑止力も決まる。ならば、双方に相手の防衛義務を課す双務性にできるだけ近づけていくのが同盟維持と抑止力強化の観点からは望ましい。その意味で、集団的自衛権が行使できるようにする安保法制は抑止力強化に役立ちうる。抑止力を発揮するには、同盟国が共同で抑止する意思と能力をつねに相手に示し続ける態勢が重要だからである。
しかし、日本のような過去の負の遺産がいまなお重く、近隣諸国からの信頼が不十分な国の場合、片務性、つまりは日本の米国依存が周辺国に一定の安心感をもたらしてきたことも否めない。それは米中正常化の際、ニクソン大統領が周恩来首相に対して、日米同盟を“瓶のフタ”論を用いて認めさせようと試みたことを見ても分かる。
にもかかわらず、米国のアジアにおけるプレゼンスの低下と中国の大国主義的攻勢が顕著になるにつれ、アジア諸国の中から、日本がアジアの安全保障でより大きな役割を担い、日米同盟を強化することを望む声が出始めていることも確かである。それに応えることも対中抑止力強化につながりうる。
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source : 文藝春秋 2015年12月号