日本での消費税の軽減税率騒ぎを聴き知るに及んで、心底がっかりしてしまった。
税金をどこにどれくらい払わせるかは、善政を心がける政治家にとっては最重要課題の一つである。会計士的な考えで、処理可能な問題ではまったくない。国の安全保障と同じで、立法と行政の双方が真剣に取り組む価値は充分にある。
にもかかわらず、主食の米飯とおかずのコロッケの税率をめぐるチマチマした話を聴かされては絶望するしかない。その結果は明らかで、もはや相当な程度に国民を絶望させている、政治と政治家の矮小化のさらなる進行以外にはない。
政府も、それを助ける省庁も、またそれを法制化する義務を負っている国会議員も、選挙を視界に入れての対策などというケチな考えではなく、国家の根幹を決める仕事をしているのだという、気概をもってほしいと思うのは求めすぎであろうか。
イタリアの消費税率は二十二パーセントという、非人間的な水準にある。かくも高率となれば、軽減税率も存在する。対象品目には、生鮮食品に加えて新聞や雑誌や書籍も入っている。それで税率を低く押さえた効果のほうだが、食品は少しはあるのかもしれないが、それ以外はすべて無し。新聞も雑誌も書籍も売れ行きは落ちる一方で、テレビの視聴率も落ちているから、これはもうイタリア人が、食料は胃のための必需品でも新聞・雑誌・書籍は頭脳のための必需品、と思わなくなったのだから、消費税を少しぐらい低くしても効果はないのだ。そのうえ、軽減税率対象外の品目をあつかう納税者たちが、脱税に熱をあげるというおまけまでがついた。脱税摘発に要する人と費用を考えれば、軽減税率とは良策だろうか。
それよりも、「税とは政治」との考えに立ち、ある地方は消費税十パーセントでも他の地方はその半額、という政策も有りではないかと思うのだが。
歴史に学べ、などとは言いたくない。だが昔の人には、次のような例もある。
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source : 文藝春秋 2016年3月号