世界の巨大な曲がり角で

宮崎 哲弥 評論家
ライフ ライフスタイル 歴史

白洲次郎(1902年〜1985年)
大平正芳(1910年〜1980年)
小松左京(1931年〜2011年)
坂本龍一(1952年〜2023年)
柄谷行人(1941年〜)

『代表的日本人』という日本史上の義人の評伝集は、日清、日露という2つの大きな対外戦争の時代に、内村鑑三によって英文で書かれた。

 この間、内村の戦争観は変貌を遂げる。先行する日清戦争を「義戦」として正当化した内村は、その「戦後」の有り様をみて、それが「欲戦として終わった」ことを認め、「非戦論」に転じた。やがて日露開戦前夜には「戦争絶対廃止論」を唱えるまでになる。

 この一連の転向のプロセスとほぼ並行して『代表的日本人』は仕上がっていく。大きな改編がなされ、随所に筆削が加えられて、日露戦争終結の数年後、現在読まれるかたちに落ち着く。

 題に「代表的“representative”」とあるのは、取り上げられた5人の人物(西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮)が傑出した義の人であり、かつ、各々の行為規範だった「義なるもの」が、多かれ少なかれ日本国民のひとりびとりに分有されていることを示唆している。

 しかのみならず、その義が単にローカルな、狭い民族的心情や国家的利害に裏付けられたものではなく、普遍に開かれてあること、他の国々の民、就中(なかんずく)、欧米の人士たちをも説得可能で、かつ彼らの模範となり得る義であることを含意していた。

 さて、内村の『代表的日本人』上木から優に100年以上を(けみ)した今日、果たして第二次世界大戦後の為政者、文学者、芸術家、思想家などから世界に誇れる人物を選び出し、日本人の代表とすることが可能だろうか。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : ライフ ライフスタイル 歴史