賞金1億円の使い途

柄谷 行人 思想家・哲学者
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「哲学のノーベル賞」受賞! 語り下ろし2時間

 柄谷行人(こうじん)氏は主著『世界史の構造』をはじめ、多くの著作が欧米圏、アジア圏で翻訳されている日本を代表する思想家・哲学者だ。昨年12月、アメリカのシンクタンクが「哲学のノーベル賞」を目指して2016年に創設した「バーグルエン哲学・文化賞」を、柄谷氏へ授賞すると発表した。100万ドル(受賞時の為替レートで約1億4000万円)という賞金も話題になった。

 今回の受賞に際して、皆が真っ先に注目するのは、賞金の額のようです。そして、これだけの賞金をもらうんだから立派な仕事をした人なんだろう、と考える(笑)。私自身、やはり賞金に驚きました。この取材がきたのも、その力でしょう(笑)。賞を設立したバーグルエン氏は、この賞に「哲学のノーベル賞」としての権威を与えるには、ノーベル賞と同額の賞金を出さなければだめだ、と思ったのでしょう。しかし、選評からも分かるように、バーグルエン氏は、事業家ではあるけれど、哲学について非常によく分かっている人なのですね。

自宅でインタビューに応じる柄谷行人氏 ©文藝春秋

 賞金の使い途をよく尋ねられますが、これほど大きな額のお金の使い方は、考えたことがなかったから、そんなに簡単には決められません。今回の受賞ではじめて、お金をどう使ったらいいのかを考えさせられましたね。

「アソシエーション」と私が呼んでいる、社会運動の組織を援助する資金ができた、とは思っています。アソシエーションには様々な形がありますが、協同組合や労働組合のようなものと考えてもらえれば、分かりやすいかもしれません。すでに2つのごく小さな組織への寄付を決めましたが、残りについては、おいおい考えていくつもりです。受賞が決まってから、為替も大きく動いたので、友人たちには「一番ドル高のときにもらえればよかったのに」と残念がられたりしました。皆、どうしてもお金の話にいってしまう(笑)。

「柄谷行人」ができるまで

 柄谷氏は1941年、兵庫県尼崎市出身(本名・善男)。1969年に文芸批評でデビューして以来、著作を間断なく発表し続けている。善男少年はいかにして「柄谷行人」となったのか。

 私は変わった子どもだったと思います。小学校に入学してから2年間、ものを言わなかった。教室でも家でもほとんど話さなかったのです。何かに深刻に悩んでいたわけではありません。対人恐怖症でもなくて、ただ何となく話さなかっただけです。その後、自然に話すようになりましたが、人前に出るのは好きではなかったので、それが文学になじんだことと関係があると思います。

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source : 文藝春秋 2023年4月号

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