借り物の言葉で喋るのを止めたら、世の中はきっと変わる
その声に一度は触れたことがあるだろう。大河ドラマ「太平記」で武家の棟梁の宿命を、「映像の世紀」で歴史の連鎖を、日曜劇場「半沢直樹」で銀行員の復讐劇を伝えた。「淡々と」。時にそう表現される声の魅力とは何か。
「特別な個性もないんです。台本を読み、深く共感し、伝えたいと願う。前の晩はお祈りします。『どうか伝えさせて下さい』って」
定年まで勤め上げたNHKでは女性初のアナウンス室長に抜擢。現在も全国を飛び回る日々だ。ライフワークは後進の育成、とりわけ子どもたちの言葉を育てること。
「家庭だけ、学校だけでは子どもを育てられない時代に、多様な大人たちがいかに彼らと言葉を交わし合うか。朗読は、そんな仕組み作りのための一つの手段です。借り物の空疎な言葉で喋るのを止めて、心で感じたことを自分の言葉で伝えられるようになったなら。世の中変わると本気で信じているんです」
少女のような75歳は今日も夢中だ。
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source : 文藝春秋 2023年11月号