日本の顔 山根基世

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山根基世(やまね もとよ・アナウンサー)
写真=石川啓次(本社)

借り物の言葉で喋るのを止めたら、世の中はきっと変わる

 その声に一度は触れたことがあるだろう。大河ドラマ「太平記」で武家の棟梁の宿命を、「映像の世紀」で歴史の連鎖を、日曜劇場「半沢直樹」で銀行員の復讐劇を伝えた。「淡々と」。時にそう表現される声の魅力とは何か。

「特別な個性もないんです。台本を読み、深く共感し、伝えたいと願う。前の晩はお祈りします。『どうか伝えさせて下さい』って」

 定年まで勤め上げたNHKでは女性初のアナウンス室長に抜擢。現在も全国を飛び回る日々だ。ライフワークは後進の育成、とりわけ子どもたちの言葉を育てること。

「家庭だけ、学校だけでは子どもを育てられない時代に、多様な大人たちがいかに彼らと言葉を交わし合うか。朗読は、そんな仕組み作りのための一つの手段です。借り物の空疎な言葉で喋るのを止めて、心で感じたことを自分の言葉で伝えられるようになったなら。世の中変わると本気で信じているんです」

 少女のような75歳は今日も夢中だ。

澤地久枝とミッドウェー海戦遺族を取材したNHK「“異形の死”と向き合い続けて」の収録。副調整室に山根の声が響くと、感嘆の溜息が漏れた

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source : 文藝春秋 2023年11月号

genre : エンタメ テレビ・ラジオ ライフスタイル