愚かな者の一歩

今村 翔吾 作家
ビジネス 働き方 読書

 何故、佐賀に。と、幾度となく聞かれた。

 私は京都府木津川市の生まれであるし、現在住んでいるのは滋賀県大津市。二〇二一年に事業承継した書店『きのしたブックセンター』は大阪府箕面市。一見、何の接点も無いように思えるのは仕方が無い。しかし、私という作家と佐賀県には実は深い縁がある。

 小説の新人賞は大きく二つに分かれる。一つは出版社が主催する新人賞。中央の賞などとも呼称され、これを受賞すれば晴れて作家としてデビュー出来る。

 もう一つは地方文学賞。これは行政が主催することが多く、地域振興を目的としており、デビューに直結しないものが大半だ。

 私は後者、佐賀県の地方文学賞である「九州さが大衆文学賞」を受賞した。この賞もやはり作家デビュー出来る訳ではない。しかし、選考委員を務めておられた北方謙三氏が「騙されたと思って長編を書かしてみるといい」と、出版社に勧めて下さった。そうして書いたのがデビュー作となった『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』である。つまり佐賀県の賞がデビューの契機となったのだ。

 その経緯を知っておられる佐賀県の方々は、以降も長く応援して下さった。直木賞でも落選する度、此度もならず、次こそはと報じて下さっていることも知っていた。

 いつか何らかの形で恩返しがしたい。そんな時、JR佐賀駅が再開発されたが、書店が戻って来ないことを嘆く声が多くあることを知った。そこで出店を決意したのである。これが大まかな経緯だ。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2024年2月号

genre : ビジネス 働き方 読書