何故、佐賀に。と、幾度となく聞かれた。
私は京都府木津川市の生まれであるし、現在住んでいるのは滋賀県大津市。二〇二一年に事業承継した書店『きのしたブックセンター』は大阪府箕面市。一見、何の接点も無いように思えるのは仕方が無い。しかし、私という作家と佐賀県には実は深い縁がある。
小説の新人賞は大きく二つに分かれる。一つは出版社が主催する新人賞。中央の賞などとも呼称され、これを受賞すれば晴れて作家としてデビュー出来る。
もう一つは地方文学賞。これは行政が主催することが多く、地域振興を目的としており、デビューに直結しないものが大半だ。
私は後者、佐賀県の地方文学賞である「九州さが大衆文学賞」を受賞した。この賞もやはり作家デビュー出来る訳ではない。しかし、選考委員を務めておられた北方謙三氏が「騙されたと思って長編を書かしてみるといい」と、出版社に勧めて下さった。そうして書いたのがデビュー作となった『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』である。つまり佐賀県の賞がデビューの契機となったのだ。
その経緯を知っておられる佐賀県の方々は、以降も長く応援して下さった。直木賞でも落選する度、此度もならず、次こそはと報じて下さっていることも知っていた。
いつか何らかの形で恩返しがしたい。そんな時、JR佐賀駅が再開発されたが、書店が戻って来ないことを嘆く声が多くあることを知った。そこで出店を決意したのである。これが大まかな経緯だ。
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source : 文藝春秋 2024年2月号