SNSが浮き彫りにする社会

今月買った本

橘 玲 作家
エンタメ 読書

 哲学や心理学などの人文科学は、いまや進化論、脳科学、分子遺伝学などの「科学」に浸食され、その歴史的役割を終えつつある。ところが『流れといのち』でベジャンは、生命もまた物理法則である以上、進化論は物理法則(コンストラクタルの法則)の一部だと主張する。異端の学説で賛否は大きく分かれるだろうが、いまもっともスリリングな議論であることはまちがいない。

 いじめ問題が百家争鳴になるのは、すべての論者がそれぞれの学校体験=いじめ体験をもっているからだ。学校や教師が悪い、いじめ加害者を処罰せよ、被害者にも責任がある、親の子育てが失敗したからだ……等々の無益な論争を終わらせるためにも、いじめを反証可能な「科学」として研究すべきだと『学校を変える いじめの科学』は説く。科学的に効果が実証された解決策を実践すべきだとの主張は刺激的だ。

 沖縄の「野の医者(民間療法)」の軽妙洒脱なフィールドワークで話題を集めた著者が、沖縄のデイケア施設で働いた体験を描いたのが『居るのはつらいよ』。今回もユーモラスな筆致は健在だが、牧歌的な日常の底から、ケアやセラピーが抱える“闇”が徐々に浮かび上がってくる。

 SNSがどういうものかよくわからないので手に取ったのが『共感SNS』。著者の経歴(元アイドル)や手掛けているビジネス(モテクリエイター)はまったく知らなかったのだが、徹底的にロジカルに、SNSの評判を共感に変え、それをマネタイズする戦略を語ることに驚愕した。そのままMBA(経営学修士)の教科書に使えるだろう。

 国立大学の大学院を卒業して就職したものの、会社組織にまったく馴染めず退職した若者が、「自分にできることはなにか?」を問い詰めた答えが「なにもない」だった。こうして、SNSで「なにもしない」サービスを始めたのが『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』。「1人だと恥ずかしいので公園でブランコに乗るのを見ていてほしい」「友だちを呼ぶほどでもないがやはり寂しいので、引っ越しを見送ってほしい」など、さまざまな依頼が集まって、いまやテレビでも紹介される有名人になった。

 興味深いのは、同じSNSを活用しながらも、元アイドルの女の子がビジネスを語り、大学院卒の男性がビジネスから撤退していくことだ。

 ヨーロッパの安楽死事情をルポした著者のところに、日本人女性から安楽死団体を紹介してほしいとのメールが届いた。回復不能の難病に冒された女性が自らの意思で致死薬のストッパーを開けるまでを描いたのが『安楽死を遂げた日本人』。NHKでも放映され大きな反響を呼んだ。

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source : 文藝春秋 2019年9月号

genre : エンタメ 読書