〈神戸に住んで私の人生観も文学観も変ったかもしれない〉
『ほっこりぽくぽく上方さんぽ』を引くまでもなく、そこは大阪に生まれ育った田辺の第二の故郷であった。結婚後10年を過ごし、小説の舞台にすることも多かった。ある作品では、大阪から来た青年が「大家族が町になっているみたい」と評する。
それだけに、すでに伊丹に移って久しい1995年の大震災にはひどく心を痛め、すぐには足を向けられなかったという。
3年が経ち、再訪が叶った。〈神戸古馴染みという人間のいくところは昔ながらのお店がいい〉と目指したのが、三宮の賑やかな繁華街に立つ「もん」。コロッケとスープを味わった。
店には今も二代、三代前からの常連が集う。田辺も、さながら“大家族”の賑わいに復興を見出し、胸を撫でおろしたのだろう。
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source : 文藝春秋 2024年3月号