評論家・専修大学教授の武田徹さんが、オススメの新書3冊を紹介します。
正しい選択をしたかったのに、どこで誤ってしまったのか…。そんな後悔をしないですむために役に立つだろう3冊を今回は紹介してみた。
選択・決定に関する誤解は、それが能動的なものと考えがちなこと。ゼロから自由に選択できる状況は実は稀で、諸々の事情により選択肢はあらかじめ限られ、結果を気にしながら、仕方なく、つまり受動的に選択することも多い。
そんな事情を考慮し、こちらが相手の反応を、相手もこちらの反応を予想するやり取りを重ねた結果、どんな選択がなされるか。そのプロセスを分析するのがゲーム理論だ。“入門以前”と謙遜しつつ親しみ易さを心がけた鎌田雄一郎『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)が、その理解への優れた水先案内人になる。
野村亮太『プログラミング思考のレッスン』(集英社新書)は順序立て効率的に演算を行うコンピュータ・プログラムのあり方に照らし合わせて私たちの思考や行動を省みる一冊。ユニークなのは選択する(=しくむ)私たち自身も操作可能な要素とみなして選択の手順を“プログラム”してゆこうとする提案だ。それも自分自身の選択を因果関係の文脈内に位置づける工夫のひとつだろう。
この2冊と読み合わせると『教養としての将棋』(講談社現代新書)は一段と味わい深くなる。先日亡くなった梅原猛を相手に対談した羽生善治は、永世棋聖の大山康晴が勝つために意図的に悪手を指して相手を動揺させることまでしたと指摘する。それは相手の反応を織り込むゲーム理論的な発想だ。
また強くなった最近のAI将棋が奔放な手を指すという指摘も印象的だった。奔放な棋風といえば大山のライバルの升田幸三だろうが、羽生によれば現実の升田は試行錯誤を続ける研究者タイプだったという。適切な選択肢を理詰めで追求するプログラム思考を升田が先駆けて実践していたと考えれば両者が似てくるのは一種の必然だったのかもしれない。
しかし相手の反応を利用する時に大山は相手が一番嫌がる“急所”を衝くことができた。升田の奇手は対局相手をも含めて周囲を魅了して場を支配したが、AI将棋の強さには感動が伴わない。
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source : 文藝春秋 2019年9月号