認知症は死への恐怖を緩和してくれるのではないか
2017年10月の講演会で、自分が認知症であることをカミングアウトしました。認知症医療の分野に携わっておよそ60年。日本人が90歳、100歳まで生きることが珍しくなくなった昨今では、認知症は誰でもなる可能性がある。「他人ごとではない、どなたも向き合っていくものなんですよ」ということを伝えたくて、公表することにしたのです。
それから1年半が経ちましたが、今もよく食べ、よく眠れ、すこぶる元気です。ただ、やはり「物忘れ」はひどくなりました。長く話していると何を話したか忘れてしまい、正直、「認知症ってこんなに大変なのか」と思うことも多い。昔は患者さんにずいぶんな言葉をかけてしまったと、反省することもあります。
しかし、そういったことも含め、ありのままを受け入れるしかないのが認知症です。まずは自分のできる範囲のことをやり、その上で少しでも人のお役に立つことができたら、こんな嬉しいことはない。そう考えながら日々楽しく過ごしています。
精神科医の長谷川和夫氏(90)は、1974年、世界で最初の認知症診断の物差し「長谷川式簡易知能評価スケール」を発表した認知症医療の第一人者だ。認知症ケア職員の人材育成にも尽力してきた長谷川氏が、自身を認知症ではないかと思い始めたのは、2017年秋のことだった。
最初は、自分が話したことをすぐ忘れてしまうようになったな、と思ったのがきっかけでした。話したと思うけども、そうでない気もする。やがて、昨日の日付はわかっていたのに、翌日になると今日が何日かわからなくなる――。そんなことが続いて、自分が認知症ではないかと思うようになりました。そこで認知症専門病院である和光病院で、様々な検査をしてもらいました。
認知症の診断では、私が開発した「長谷川スケール」を用いるのが一般的です。「お歳はいくつですか」「今日は何年の何月何日ですか、何曜日ですか」といった9つの質問に答えてもらい、回答の内容を点数化して、認知症の有無を診断します。
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source : 文藝春秋 2019年7月号