著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、蔵屋美香さん(キュレーター・横浜美術館館長)です。
わたしの母はダンス好き。今も地元のフォークダンス・サークルで踊っています。年齢は内緒ですが、小学四年で終戦を迎えたと言えばおわかりいただけるでしょうか。
これは、ごくふつうのおばちゃんのこんな趣味に、大きな歴史的出来事が関わっているというお話です。
母が生まれたのは長崎です。一九四五年八月九日、原子爆弾の投下に遭遇しました。今、目の前にいるこの人の網膜が、人類史に残るあの瞬間を映したのかと思うと、本当に不思議な気持ちです。
幸い爆心地と家の間に山があり、家族も家も無事でした。そして終戦。長崎には進駐軍の長崎軍政部が置かれました。
この軍政部にウィンフィールド・ニブロという教育官がいました。中学・高校の男女共学化などを推進した人物です。
ニブロはまた、スクエアダンスの指導者でもありました。男女四人ずつ、計八人が指示者のかけ声に合わせて踊る、アメリカ発祥のフォークダンスです。たまたま教育関係者の集まりでこれを披露したところ、大好評。ニブロはさっそく政策の一環として県下にダンスを広めることにしました。男女が共に手を取り合って踊ることで、「七歳にして席を同じうせず」風の教育を受けた人びとが、アメリカ式の民主主義を学ぶだろうと考えたのです。そこには、甚大な被害を被った長崎で、アメリカへの怒りの矛先を逸らす目的もあったでしょう。
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