森繁久彌 満州の空を忘れず

加藤 登紀子 シンガーソングライター
ライフ 昭和史 映画 音楽

俳優のみならず、歌手や作詞家としても活躍した森繁久彌(1913〜2009)。作詞作曲した『知床旅情』は後年、加藤登紀子氏によってカバーされ、140万枚のヒットに。加藤氏が生前の思い出を綴る。

 森繁久彌さんが亡くなって15年、なんだかご縁は時を経ると共に深くなるような気がします。

 2022年、ロシアのウクライナ侵攻が始まった時、ひたすら思い出されたのは、ウクライナの農村を舞台にした『屋根の上のヴァイオリン弾き』でしたし、同年、知床のウトロで海難事故が起こった時一番に思ったのは、『知床旅情』の歌が生まれるきっかけになった昭和34(1959)年の羅臼での海難事故のことでした。

森繫久彌 ©文藝春秋

 あまり報道されなかったけれど、およそ90人もの漁民が亡くなった事故を知った森繁さんが、厳しい自然と戦いながら生きる人たちを映画にしようと、『地の涯に生きるもの』を自主映画として制作し主演することを決断。そのロケの終わりに、知床の人たちに贈った歌が『さらばラウスよ』でした。

 それが『知床旅情』として歌われてから10年後の昭和45(1970)年に、私がカバーし、もうそれから54年です。

『地の涯に生きるもの』で森繁さんの演じた彦市爺さんと、『屋根の上のヴァイオリン弾き』のテヴィエ老人がそっくりの衣装と同じ髭面だった事が、森繁さんの全人生とつながるような気がします。

 森繁久彌さんが二つの作品で描いた家族への深い愛と、時代に翻弄される民衆への愛惜に、私は同じ遠い満州の空を感じてきました。

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source : 文藝春秋 2024年8月号

genre : ライフ 昭和史 映画 音楽