「このままでは終わりたくない」元大関、復帰への道

第44回

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左膝にさらなる大ケガを負った元大関朝乃山(右) Ⓒ時事通信社

「相撲の神様っているんですかね……」

 8月末、松葉杖を携えた元大関朝乃山が、ぽつりと口にした。高砂部屋恒例の合宿に同行した私は、彼の故郷の富山後援会から差し入れされたという“呉羽梨”を剥きつつ、その顔を直視せずに瞬時に応えていた。

「うん。相撲の神様はいるよ。全部見てるはず」

「まだ神様は僕のことを許してくれてないのかも。あんなことしちゃったから……」

「いや。もう充分に、その件の禊は済ませたと思うけど。また試練が与えられちゃったね。なんでだろうね」

 2019年5月場所、平幕での初優勝時。来日した、当時のトランプ大統領から表彰されて一躍話題になった。その後、とんとん拍子に大関に昇進したものの、コロナ禍で定められた相撲協会独自の外出規制に抵触し、咎められた朝乃山。代償は大きく、約1年間にわたり土俵に上がることが許されず、番付は一気に三段目まで落ちたのだった。

「元いた大関の地位まで復活したい」との思いで雌伏の時を過ごし、番付を戻してきた矢先。ようやく三役に復帰した今年5月場所は、右足のケガで全休することに。続く七月名古屋場所は前頭十二枚目で迎えたが、左膝にさらなる大ケガを負った。

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source : 文藝春秋 2024年10月号

genre : エンタメ スポーツ