ゼウス降臨

第148回

中野 京子 作家・ドイツ文学者
エンタメ アート

一枚の名画をのぞき込んでみると……

 

✓見えてきたのは「苦悶するプットー」

西洋絵画の中で、翼をもつ可愛い幼児がひとりで、あるいは複数で飛びまわっているのをよく目にするが、彼らは一般にプットー(「小さな男の子」の意)と呼ばれる。しかしてその実態はというと、ある時は天使であり、ある時はキューピッドなのだ。見分け方は簡単(でもないが)、宗教画の中にいるならそれは天使、神話画の中にいるならキューピッドである。さて、では、この苦悶の表情のプットーはどちらでしょうか?

 


 

ゼウス降臨

『ダナエ』

1636年、油彩、185×202.5cm、エルミタージュ美術館 / 写真提供 alamy/amanaimages 

 ギリシャ神話の主神ゼウスは、ヘラという妻がありながら他の女神やニンフや人間の女を次々に孕ませた。

 そのやり口は用意周到で、ある時は牡牛に、ある時は鷲に、白鳥に、自分の娘ディアナに、さらには相手の女性の夫にまで変身しまくって思いを遂げるのだから、呆れ果てるとはこのことだ。もちろん本作も、ゼウス変身の物語である。

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source : 文藝春秋 2024年12月号

genre : エンタメ アート