ルトガー・ハウアー ©時事通信社
「北のヴェネツィア」と呼ばれるオランダのヒートホールンで、ちょっと変わった男と知り合いになったことがある。1990年ごろの話で、ヘリットというその男は半農半酪の生活を営んでいた。
綽名(あだな)にたがわず、町には水路が四通八達している。陸路はなきにひとしい。ヘリットは羊を舟で運び、所有する浮島で育った葦を刈って暮らしていた。その顔が、ルトガー・ハウアーにそっくりだった。似てるね、というと、この手の顔はオランダ北中部に多いんだ、と照れ笑いを浮かべた。見覚えのある笑顔だった。
1990年ごろ、ハウアーは無敵の進撃を見せていた。『ブレードランナー』(1982)で国際的スターの仲間入りをし、『レディホーク』(1985)、『ヒッチャー』(1986)、『聖なる酔っぱらいの伝説』(1988)、『ブラインド・フューリー』、『サルート・オブ・ザ・ジャガー』(ともに1989)といった映画を連打した。たわいない娯楽作から味わい深いたたずまいの佳篇まで、芸域は広い。
なかでも忘れがたいのは、『ブレードランナー』でレプリカントのロイを演じたときだろう。舞台は2019年11月のロサンジェルス。ロイは「人間への反抗」を理由に追われている。「処理」する側に立つのが、ブレードランナー(捜査官)のデッカード(ハリソン・フォード)。
有名な映画だから詳細は省くが、ラスト近く、ロイがデッカードに低い声で語りかける場面は伝説となった。
「そんな思い出もやがて消える。雨のなかの涙のように(like tears in rain)」
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source : 文藝春秋 2019年10月号