クラウディア・カルディナーレ ©時事通信社
私が高校生だったころ、ラジオからは『ブーベの恋人』(1963)の主題曲がひっきりなしに流れていた。大抵は映画のサウンドトラックかマランド楽団の演奏だったが、ときおりザ・ピーナッツの日本語カバーも混じった。女のいのちは/野原に人知れずに咲く花よ、とはじまる歌詞にはちょっと笑い出しそうになったが、CCことクラウディア・カルディナーレを「野生の花」に見立てる意図があったのだろう。まあいい。
当時のCC人気は爆発的だった。同級生だった医者の息子は、ノートに彼女の写真を何枚も貼りつけ、眼を血走らせていた。「BB(ブリジット・バルドー)よりCC」というのが彼の口癖だった。
それもまあ、どうでもいい。いまにして思うと、1960年代のカルディナーレは一陣の突風だった。私は『鞄を持った女』(1961)を名画座で見て、おっと思った。ちょっと前の『刑事』(1959)や『若者のすべて』(1960)にも顔は出していたのだが、気づいたのはあとになってからだ。ピーク時の63年には、『山猫』、『8½』、『ブーベの恋人』、『ピンクの豹』が並ぶ。少しあとでは、『プロフェッショナル』(1966)や『ウエスタン』(1968)で、原野や砂漠や荒くれ男たちに向き合う。
『鞄を持った女』の冒頭、カルディナーレはカブリオレの助手席に乗っていた。車が急停止すると、カルディナーレが走り出てくる。草むらで用を足そうとするのだが、棘だらけだわ、とつぶやき、スカートをたくし上げながらしゃがみ込む姿がまるで牝豹(めひよう)だ。運転席の若者とは、知り合って間がないらしい。つぎの場面で駐車場に入った若者は、鞄と彼女を置き去りにしていく。この先が大変だ。
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source : 文藝春秋 2019年11月号