ドウェイン・ジョンソン ©時事通信社
あの姿を画面で見たときは、道頓堀名物〈かに道楽〉の看板が化けて、激しく動き出したのかと思った。
『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(2001)の終盤、顔は人間で、肘から先と下半身が大きなサソリというスコーピオン・キングが、その奇怪きわまる姿で登場したときのことだ。サソリ男の迫力は、紅白歌合戦で巨大な電飾を身にまとった小林幸子の姿を超えていた。
私は仰天し、眼をみはった。サソリ男に扮していたのは、あのロック様ことザ・ロックだった。どうせ特撮だろう、などと高をくくってはいけない。ザ・ロックの顔と身体なくして、あのクリーチャーの造型はあり得なかった。逆にいうと、この姿にぴたりと嵌まる人類は、ザ・ロックをおいて考えられない。
1990年代終盤から2000年代初頭にかけて、ザ・ロックは、プロレス団体WWF(現在のWWE)のエースだった。1972年、カリフォルニア州生まれ。サモア人の祖父(ピーター・メイヴィア)もアフリカ系カナダ人の父(ロッキー・ジョンソン)も、有名レスラーだ。身長196センチ、体重115キロという筋肉の塊で、通称は「ピープルズ・チャンプ(みんなの王者)」。ロックボトムやスパインバスターなどの決め技はもちろんのこと、マイク・パフォーマンスも抜群に巧い。スティーヴ・オースティン、ジ・アンダーテイカー、トリプルH……あくどいスター輩出の時代だが、悪役(ヒール)の兄ちゃんからエゴの強い王者に成り上がったザ・ロックの人気は絶大だった。
そんな彼が、映画界に転進した。デビュー作が、いま述べた『ハムナプトラ2』だ。サソリ男のインパクトは文句なしに強烈で、ただちに翌年、シリーズのスピンオフ作品『スコーピオン・キング』が公開される。舞台はやはり古代エジプト。前作で悪の化身だったサソリ男は善玉に書き換えられ、残虐な独裁者を倒してみずからの王国を建設する。
ただし、こちらは英雄物語なので、サソリの姿に化けたりはしない。私はちょっとがっかりしたが、強くて、大らかで、心やさしく、冗談の通じやすい彼の基本キャラクターは、ここで確立された。体格やオーラを眼のあたりにするだけで、不死身の存在が信じられるのだ。矢で射抜かれようと、高い崖から転落しようと、ザ・ロックはかならず立ち上がる。そんな姿に説得力を持たせられる俳優は、そう見当たらない。アーノルド・シュワルツェネッガーやスティーヴン・セガールに比べても、動きが派手で速い。
「ザ・ロックでなければ戦えない」人外魔境映画は、ここからスタートした。
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