「奔放不羈な『風だるま』」若山富三郎

スターは楽し 第159回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画

「ショーグン・アサシンは最高だ!」

 1980年代の初め、ロサンジェルスでアメリカの友人が叫んだ。彼はリトルトーキョーの映画館で、この作品を繰り返し見たという。製作はロジャー・コーマン。知らない題だったが、話を聞くと、『子連れ狼』ではないか。コーマンは、シリーズ第1作の『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』と第2作『子連れ狼 三途の川の乳母車』(ともに1972)を再編集し、『ショーグン・アサシン』(1980)という1本にまとめて、アメリカで公開したのだった。奇抜で豪快な殺陣に、観客は熱狂した。のちにクエンティン・タランティーノも、このシリーズのファンだったことを公言している。

 いまではよく知られた逸話だから、詳述は避けるが、当時は、意表を突かれて膝を打った。そうか、若山富三郎の魅力は国境を越えたか。さすがだ。

 60年代末から70年代前半にかけて、若山富三郎は怒濤の進撃を見せた。私が最初に驚いたのは、『博奕打ち 総長賭博』(1968)を封切で見たときだ。若山が演じる松田鉄男は、鶴田浩二が扮する中井信次郎という侠客の義弟だが、直情径行型で虫っ気が多い。いわば「難儀な奴」で、昔ながらの侠客道を死守しようとする中井と悲劇的に対立する。

 このときの、若山の性格造型が鮮烈だった。丸い身体や顔に込められた情感が実に重層的なのだ。愚直、愛嬌、憤怒、断念、哀愁といった情感が重なり合い、それらが錯綜していきなり暴発する様子が類を見ない。この人は鶴田浩二よりもエモーショナルで、高倉健よりもアナーキーだったのか、と私は思った。

 若山富三郎は1929年、深川に生まれた。父は長唄の杵屋勝東治(きねやかつとうじ)。弟は勝新太郎。新東宝時代の『四谷怪談』(1956)や大映時代(芸名は城健三朗)の『眠狂四郎女妖剣』(1964)で顔は知っていたが、衝撃を受けたのは、ストイックな情感を上位に置く東映任侠映画に、奔放不羈(ふき)な風を送り込んだときからだ。

『総長賭博』の直後には極道シリーズ、前科者シリーズ、極悪坊主シリーズなどが量産された。プログラム・ピクチャーの時代で、渋谷や新宿の東映直営館へ行くたび、若山主演の映画がしょっちゅうかかっていた記憶がある。緋牡丹博徒シリーズでお馴染みの熊虎親分も、ほどなくシルクハットの大親分に転身した。

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source : 文藝春秋 2019年9月号

genre : エンタメ 映画