読売新聞グループ本社代表取締役主筆・1926年生
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ポピュリズムという妖怪が、現代世界の各地で徘徊している。
米国ではトランプ現象が、フランスではルペンの国民戦線が、イタリアでは人民投票を求める「五つ星運動」が、スペインでは新興左派の「ポデモス」が、ドイツでも「反移民」の極右が台頭し、不気味なポピュリズムの風潮にのって拡大しつつある。そして、直近ではかつて世界の先進大国であった英国が「移民」と「主権」の二語で真っ二つに分断し、世界をリーマン並みの経済危機に追い込んでいる。
これらポピュリズムは、反知性主義、排他主義、一国至上主義、直接民主主義(人民投票政治)、ナショナリズム等の装いをこらしつつ、その主張の過激さで、健全な現代民主主義秩序の破壊を目指す点で共通している。
日本はかつて大正期に、軍閥政権と戦った二次にわたる護憲運動の時代があった。それをリードした吉野作造の「民本主義」、河合栄治郎の「トーマス・ヒル・グリーンの思想体系」の紹介、そしてカントを源流とする道徳律の至上価値を中心概念とする人格主義哲学、それらを抱合しつつ、大正の知的指導者たちは、美しい「大正デモクラシー」の時代を構築した。
昭和初期にそれがあっという間に倒壊し、皇国史観学者、革新官僚、革新派青年将校による軍国主義政権がうち建てられてしまった。彼ら極右派は、やがてあの愚劣で暴虐な太平洋戦争に全日本国民を追いやった。
今、世界各地で勃興しつつある反知性的ポピュリズムを見ていると、この日本では大丈夫かと気になる。私自身の旧制中学、高校時代に見てきた世間の愛国主義化、軍国主義化の経験からだ。
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source : 文藝春秋 2016年9月号