2018年3月2日、当時5歳の船戸結愛ちゃんが父親によって暴行された末、餓死した目黒虐待死事件。実は、裁判では明かされなかった“幻のカルテ”と拘置所の面会記録があった。それを基に事件の本質に迫った――。
「神様の存在を信じていました」
ランドセルはもう、届いていた。東京・目黒のアパートに暮らし、間もなく小学校に入学予定だった船戸結愛(ゆあ)(当時5歳)は、引っ越してきて間もない2018年1月下旬から、五目豆やもずくといった低カロリーの食事しか食べさせてもらえなかった。1か月余りで次第に痩せこけ、体重の実に4分の1を失って3月2日、死に至った。遺体には170か所ものあざや傷が確認された。6歳の誕生日の18日前のことだ。
結愛ちゃん
最後の日、若い母親は娘の側に寄り添っていた。死の間際まで、口を湿らせ、飴を舐めさせ、冷たい手足をタオルで巻いた。
「小学校に行ったら楽しいことしよう」と声をかけると、娘はうん、と笑顔を返したが、間もなくお腹が痛いと苦しんで水分を吐き出し、そして瞼を閉じた。
保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕されてから1年後の今年6月、東京拘置所を訪れた精神科医にその母親、優里(ゆり)被告(27歳)は、当時の心境をこう述べた。
懲役8年の判決が下った船戸優里被告
〈神様の存在を信じていました。祈ることしかできなかった。元気になることを心の中で想像していた〉
*
東京地裁が下したのは、懲役8年の実刑判決だった。
判決によれば夫の雄大被告(34歳)、結愛、当時1歳の長男とともに香川県から転居してきた優里は、結愛に必要十分な食事を与えず栄養失調に陥らせ、免疫力を低下させた。夫が結愛の顔面を腫れ上がるほど叩いているのに、やめるよう言うだけで結果的に容認。2月27日ごろには結愛が嘔吐して衰弱するのを知りつつも虐待の事実が発覚するのを恐れ、わずかな食べ物しか与えず病院に連れていくこともなく肺炎による敗血症で死亡させた。
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source : 文藝春秋 2019年11月号