冷静さの一方で「疑米論」も 台湾社会が考える「中国侵攻」

6割超が中国を脅威と懸念

劉 彦甫 東洋経済編集部員・記者

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 中国が台湾を併合(統一)するために武力攻撃を行う、いわゆる「台湾(海峡)有事」への関心が高まって久しい。台湾は国防予算を増額し続け、1年間の徴兵制も復活させた。日米欧も有事を懸念し、対中抑止の強化を進める。ただ、日米欧の政府や社会が、当事者である台湾社会が中国の侵攻をどのように捉えているのかについて、台湾国内の議論や構造を正確に理解しているとは必ずしもいえない。

 各国内では防衛・軍事力強化や対中政策に関して、それぞれのイデオロギーなどを背景に情報を発信する政治家や言論人が存在する。彼らは自分たちの意見に合わせて台湾社会の雰囲気や台湾人の考え方はどのようなものかについて、都合よく情報をつなぎ合わせて流布している。

 たとえば、日本では防衛強化に反対する革新・リベラル派の言論人やメディアが「台湾社会は落ち着いている」と主張し、「台湾有事を煽っているのは日米政府で懸念は虚構だ」との考えを広げる。一方で防衛強化を進めたい保守派の一部では中国の脅威を過度に強調し、「台湾は危機感が足りない」と訴える。

 結果的に各国で流れる台湾情報や情勢認識は歴史や実態との乖離が多々ある。これでは政策をミスリードし、台湾海峡の情勢を悪化させかねない。そのため、台湾社会の考え方を経緯や構造を理解して、多角的に把握することは必要だ。

画像はイメージです ©アフロ

危機感と冷静さを無意識に両立

 実際に台湾社会はどんな状況か。端的に言えば危機感と冷静さが両立している。

 台湾政治研究者の小笠原欣幸・東京外国語大学名誉教授は「偉大な鈍感力」という言葉を使う。70年以上にわたり中台関係で揉まれ続けてきたことで、台湾の人々は危機的な状況でどう適切に反応すべきかを身につけてきたと指摘する。

 2022年にペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問後、中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を実施した。台湾メディアは連日報道し続けたほか、日米欧のメディアもトップニュースで伝えるなど緊迫した。が、当の台湾社会はパニックも起きず、いつものように出社・登校し、帰宅して食事し就寝する日常が営まれた。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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