今年の1月10日、皇居・宮殿の正殿にある松の間で行われた講書始の儀で進講者を務めました。天皇皇后両陛下と愛子さま、秋篠宮ご夫妻と佳子さまたちの前で「古代の衣服と社会・国家・国際関係」と題したご進講をしたのです。講書始の儀は、学問を奨励するために明治天皇が定めた御講釈始が始まりです。後に人文科学・社会科学・自然科学の分野から、研究者が選ばれてご進講を行う、現在のスタイルになりました。
最初に連絡があったのは、2023年10月頃。文科省から「講義をしていただけないか」と打診がありました。以前、上皇上皇后両陛下と紀宮さまに、御所でご進講をしたことはありましたが、「なぜ私に?」と思いました。お引き受けすると、まずは自分が講義をする前年の講書始の儀に、参加することになりました。恐らく本番の予行演習のためでしょう。2024年1月、大阪大学の同僚だった名誉教授らが講義をする様子の一部始終を、後ろに座って見ていました。
実際にご進講する内容の原稿を提出したのは、一昨年の11月。これを持って、ご進講の陪聴に臨んだわけですから、準備万端整っての参内です。どなたかに支障が出れば、即座に陪聴者が取って代わることが出来ます。よく工夫された仕組みだと思いました。特に指定はありませんでしたので、弥生時代に中国から卑弥呼に贈られた装束や古代の天皇の礼服などについて解説することにしました。
日本には重祚を含めて10代、8人の女性天皇がいましたが、なかでも古代に6人の女性天皇が誕生しています。女性の地位も高かったからだと思われますが、そのことは当時の男女同形の礼服からも窺えます。たとえば奈良時代の東大寺の大仏開眼の際のことです。聖武上皇と光明皇太后、娘の孝謙天皇は、同じ白の礼服を着ていました。
しかし平安時代初期から、中国風の礼服を着用するようになります。儒教思想の強かった中国では、女性の皇帝を許容しませんでした。女王という言葉も、中国国内にはありません。中国風の礼服とはつまり、男性用の衣服のことです。そして奈良時代後期の称徳天皇以降、女性天皇が現れなくなりました。次の女性天皇である明正天皇が誕生したのは江戸時代でした。
こうした歴史を踏まえて、20分ほどの時間で話せるよう、5000字ほどの原稿にまとめました。
当日は朝、お迎えの乗り慣れないセンチュリーに乗って9時半頃に宮殿へ。10時半からの講書始の儀が終わると、今度は別室で両陛下と愛子さまとのご挨拶の場が設けられています。15分程度と短時間でしたので、軽くお話をさせていただいただけでしたが、ご進講のなかで『とりかへばや物語』について触れていたこともあり、愛子さまが「大学時代に読みました」とおっしゃいました。学習院大学文学部の日本語日本文学科で学ばれたのでしょう。そのことが印象に残っています。
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