安倍首相とトランプ大統領は、この4月、5月、6月と毎月、立て続けに首脳会談を行なう。これほどの濃密な日米両首脳の交流は、1954年の吉田茂首相とドワイト・アイゼンハワー大統領の会談以降の戦後の日米サミット史でも初めてのことである。
トランプ政権誕生の直後、トランプは、TPPからの米国の脱退を表明。さらに、安全保障条項を盾に日本から米国への鉄鋼・アルミ輸出に対する関税引き上げを実施した。北朝鮮との核廃棄交渉では、米韓軍事演習を一方的に中断した。今後、トランプが赤字減らしのため日本の自動車貿易に数量目標を突きつける恐れもある。北朝鮮については、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発放棄と引き換えに核能力の廃絶ではなく段階的縮小で手を打つかもしれない。そうなれば、事実上の核保有国黙認に等しい。
この間一貫しているのは、多角的交渉に背を向け、一国主義ないしは二国間主義に傾斜する強国の論理であり、同盟国も非同盟国も同じように即物的な取引の対象とみなす“ディール”志向である。ここでは同盟の芯であるべきトラスト(信用)や同盟国としての信頼性はほとんど考慮されない。
トランプ政権が、日本外交にとってリスクの側面を強めていることはいよいよ明白である。
それは、世界秩序をかく乱し、自由、無差別、多角的なガット・システム(WTO=世界貿易機関)を動揺させている。アジア太平洋地域の自由で開かれた多角的な経済秩序への動きを阻害しかねない。
次に、米国を中心とする同盟システムを安定基盤とする世界の安全保障の枠組みを突き崩す危険がある。英国のEU(欧州連合)脱退の動きも加わってNATO(北大西洋条約機構)は空洞化の様相を強めている。米国のアジア政策の柱として打ち出された「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想は依然、肉付けができていない。
それから、トランプが演出する「予測不可能性」の政治と外交が、米国の戦略意図を一層、不透明にし、機会主義的外交への誘惑を世界中で惹起するリスクを増大させている。
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source : 文藝春秋 2019年6月号