「これでエーアイ」とは、思えない
平成の時代、将棋は大きく変わったとされる。棋譜がデータベース化されて、過去の将棋が、どこでも手軽に検索できるようになった。多くの対局がネットで中継されるようになり「観る将」という将棋を観戦するだけのファンも増えた。そしてAIの登場で、将棋そのものも変わった。豊川七段は、AIが人間よりも強くなった今、棋士が果たす役割はどういうところにあると感じているのだろうか。
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豊川 うーん。人間ドラマ……でしょうね。人はミスをしますが、それも含めて将棋だと。それこそ順位戦で9勝1敗の成績を残しても、頭ハネで昇級できなかった藤井くんもドラマじゃないですか。AIに勝てなくなったとき、最初はショックでした。でも、これから棋士がまたそれよりも強くなるくらいのドラマが演じられたらいいなとも思っています。「これでエーアイ」とは、思えないですね。評価値なんか「ふざけるな」という思いもありますよ。
――ご自身の将棋の鍛錬にAIなど取り入れたりしていますか?
豊川 いや全然。僕は今でも棋譜をコピーしての手並べです。古い将棋指しですね。ほんとオヤジ受難の時代ですよ。こっちは木刀で戦っているようなものですが、AIを使っている若手は、ライトセーバーで戦っているようなものでしょ。AIで研究している人ってなんとなくわかるんです。序盤の精度も高いし、終盤の寄せも早いし。似たような将棋も多いし……。
50代以上で勝ち越した棋士はわずか4人
――それでも昨年度は、15勝14敗と年度勝ち越しを果たしておられます。
豊川 いやいや、たった1つの勝ち越しですけどね(笑)。でも来年度も頑張りますよ。
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ちなみに現在、現役プロ165人中、50代以上の棋士は44人。そのなかで昨年度勝ち越しているのは、わずか4人に過ぎない。
豊川孝弘七段といえば「楽しく面白い棋士」という印象ばかりだったが、このインタビューで、勝ちに強くこだわる負けず嫌いの棋士という一面も知ることができた。これからはその解説だけではなく、その戦いにも大いに注目していきたい。
写真=白澤正/文藝春秋