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「Napster」との出会いと、逮捕者も出た「WinMX」

――規則と自由を守るための自重、という文脈ですと、津田さんは1999年夏頃、ファイル共有ソフト「Napster」と出会って「存在の『ヤバさ』に一発で打ちのめされた。『これは世界に革命を起こすぞ!』と真剣に思った」と書かれています(『だれが「音楽」を殺すのか?』)。さらに2001年に著作権侵害による逮捕者も出た「WinMX」に関連して、津田さんが2003年に編著者として関わった『だからWinMXはやめられない』という本もあります。同書については、タイトルだけ見て批判する人もいますね。

津田 あれは僕の経験ではなくて、とある出版社で編集者をしていた実在の人物がいます。あの本は、彼がMX上で「神」になった経緯を取材し、小説仕立てで書いた取材記です。MXのヘビーユーザーたちがやっていたことは違法かもしれないけれど、むきだしのユーザーニーズがあると思った。善悪を問題にするのではなくて、むしろこれを取り込んでビジネスにしていくことが大事なんじゃないですか? ということを編著者としてのあとがきで書きました。

 そのことに最初に気付いて合法的なビジネスモデルを構築したのがスティーブ・ジョブズで、iTunesストアを始め、すべてが変わった。ジョブズが切り拓いたデジタル音楽のニーズをより豊かな体験にするような存在としてSpotifyが登場し、いまや音楽はサブスクリプション全盛時代になりました。さっきの校則の話じゃないですけど、ルールがおかしいと思っているなら、まず異議申し立てをする権利はありますよね。特にネットが出てきた90年代から2000年代はじめの頃は、ルールそのものが時代に追いついていないところがたくさんありました。

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――津田さんは早稲田大学社会科学部を卒業後、本格的にフリーライターの道へ進みます。

津田 怠惰な大学生だったんですが、当時は雑誌とインターネットが好きで、出版社に入って編集者になりたかったんですよね。就活は一応して出版社だけ受けたんですが結局全部落ちました。

 僕はもともとメディア業界への就職を希望していたし、新聞もテレビも出版もラジオも好きな人間で、だからこそ旧メディアにはなくなってほしくないんですよね。でも旧メディアがネットをいつまでも敵視するだけで、ネットから顕在化してくるユーザーニーズとまともに向き合わず、そのまま沈んでいっている状況に対して、それは違うんじゃないか、とずっと思っていたし、言い続けてきた。『だからWinMXはやめられない』で音楽業界について書いたことは、そのまま新聞やテレビ、出版にも当てはまると思っていますし、あの頃からあんまり問題意識は変わっていないんです。

思想的には、左翼じゃなくてリベラルのほうが強い

――思想的な背景という意味だと、ご家族の影響はあるんでしょうか。

津田 父は60年代に学生運動に関わったのを機に、10年ほど社会党議員の私設秘書も務めていました。でも僕に政治信条を押し付けることはなくて、基本的に放任というか、高校に入ると「もう一人前の個人なんだから、自分の道は自分で決めろ」という感じで、ほとんど「ああしろ、こうしろ」と言われたことはないです。

 

 母は国立大の職員で、職場での労災事故に遭って、10年間裁判をやっていたんですよね。国を相手取って最高裁まで争っているので、その過程で我が家へのダメージももちろんありましたし、国賠訴訟における理不尽さもたくさん目にしました。自身の政治的価値観は、父親の思想信条の影響より、そういう家庭環境の影響のほうが大きかったと思います。父の収入が不安定な中、家計を支えたのは母でした。体調を崩しがちだった母にかわって、父が家事を進んでやっていましたが、僕や妹の学費が必要で辞めるわけにもいかなかったから、訴訟を続けながら大学で働き続けていました。僕は浪人して家計に負担をかけてしまっていたので、大学の入学金以外の学費は、貸与型奨学金をもらって自分で学費を払って大学に行きました。

 こういうとみんな笑うと思うんですけど、僕、たぶん思想的にはそんなに左翼ではなくて。多分リベラルのほうが強い。自由に生きたいと思ってますし、自由競争してみんな稼げばいいじゃん、とも思ってる。若干ネオリベっぽいところもあるんです。世間的には「極左」ってイメージでしょうが(笑)。