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東大進学NO1・開成生は、なぜ何よりも「運動会」を重要視するのか

開成の卒業生たちが礼儀正しい理由

2019/11/24
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 開成の運動会は毎年5月の第2日曜日に開催される。当日は各組が上級生の指揮の下、声をからして応援するという。在校生の保護者はもちろんのこと、これから開成を受験するだろう小学生たちとその保護者が大挙するため大規模なイベントになる。

 運動会のクライマックスは高校2年生、3年生による「棒倒し」。2018年には何とニューヨーク・タイムズ紙でもこの「棒倒し」が特集された。「The Organized Chaos of Botaoshi, Japan’s Wildest Game」(日本で最も勇猛な競技『棒倒し』の組織された混乱)と題された記事が世界に配信されたのだ。

運動会の準備は先輩からの「恫喝」から始まる

 先述したが、運動会は学年別でチームを組むのではなく、中学校1年生から高校3年生までの「縦割り」だ。だから、上級生はチームを団結させるために、下級生たちを準備段階から徹底的に指導していく。当時を振り返った卒業生たちはまさにそれは「恐怖体験」だったと笑う。

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開成生のアイデンティティーの中核にあるのが「運動会」

 私立大学医学部に在籍している卒業生は当時の様子を思い出す。

「運動会シーズンが近づいてくると、中1は援団(応援団)という高3の人たちに取り囲まれて応援練習をします。団長がわざとバンッとドアを叩いて『決起いくぞ!』なんて叫んで(『決起』とは応援種目の一つ)。で、まごまごしていたら団長が『おい! お前ら、『決起』も言えねえのか! そんなんじゃ、応援になんねえんだよ!』ってメガホン叩きつけて帰ってしまう。そしたら、ほかの援団の人が『お前ら団長さん怒って帰っちまったじゃねえか!』とキレる(笑)。返事は『はい』じゃだめなんです。『おお!』って答えなきゃいけない。もうお家芸って感じ(笑)」

 こんなことを聞くと、スパルタ的な「しごき」がおこなわれているように感じてしまうが、厳しいのは練習の序盤のみ。下級生が従順な態度を示していることが分かるや否や上級生たちは途端に優しくなるという。

大学受験より運動会を優先する

 1978年(昭和53年)から2010年(平成22年)まで実に33年に渡り開成で教鞭を執った橋本弘正先生がこう説明してくれた。

「団長が暴走しないように『組責任者』というのが一人いて、こいつが圧倒的に優秀。学業的にも人格的にも優れている人が組責任者になりますね」

 先ほど開成卒業生同士のあいさつは、組の色をたずねることと、運動会の役職を聞くことだと書いたが、そんなにその役職というのは大切なのだろうか。