リーダーの負担やプレッシャーはかなり大きい
ひとりの卒業生はこんな質問に対して深くうなずく。
「開成の卒業生と会って、彼が後輩だったとしても、『応援団長をやっていた』『組責任者をやっていた』なんて言われると、わたしはちょっと襟を正さざるを得ないですね。軽く扱えないなという思いを抱きますし、もうそれだけで尊敬の対象になりますね」
橋本先生もその弁に同意する。
「それはあると思います。厳しい選挙を乗り越えて当選した人しかその役には就けないのですから。『俺たちのカラーを代表する』のはこの人物であると認められたわけですからね」
応援団長はクラスの中で最もリーダーシップを張れるだろうと期待された生徒が選ばれる。一言でリーダーシップといっても、全体を力強く統率するタイプだけではなく、クラス全員の意見にしっかり耳を傾けられる忍耐力と調整能力に優れたタイプなどさまざま。いずれにせよ、応援団長と組責任者の2名は、高2から高3の1年近くかけて運動会成功を目指して準備を積み重ねていくため、その負担やプレッシャーはかなり大きいらしい。
しかし、日本を代表する進学校である開成の高校3年生が、受験生にもかかわらず運動会に燃えているのはなかなか興味深い。
卒業生たちは開成生にとって運動会が第1なのだと口を揃える。
「運動会が近づくと、高校3年生は大学受験のことなんて全部忘れて、もう頭の中は運動会のことばかりですよ(笑)。そして、運動会が終わると何週間かはぼうっとしているんですけど、6月くらいになると急に我に返って受験勉強に励むようになる(笑)」
運動会が人間形成に大きな影響を及ぼす
この運動会の一連の取り組みが開成卒業生たちの性格に大きな影響を与えると橋本先生は言う。
「下級生は上級生に憧れの目を向けて、上級生は下級生の模範になる行動をとる。このような上下関係を構築することは大きな意味があります。これは社会に出たときに自分の居場所を見出す訓練にもなっているのではないですか。たとえば、現代は上司に対してとは思えない口調で話す人もいますよね。でも、開成出身者がそのようなふるまいをすることは絶対にない。簡単にいうと、タテ社会の中で開成出身者は使い勝手がよいのではないでしょうか」