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「予約の取れない料理店」をありがたがる小金持ちの事情

「予約の取れない料理店」をありがたがる小金持ちの事情

「予約の取れない料理店」の予約を手に入れるとっておきの方法 #1

note

人気店に行くことで心の隙間を埋める?

堀江 しかもいまは、それが東京だけじゃなくて、グローバル化してるんですよ。毎年発表されている「世界のベスト・レストラン50」は審査員が世界中に約1000人いて、ゆるやかに全世界の人たちが繋がっているんです。英語がそこそこ喋れて料理の知識があって、年間500店舗くらい行ってると仲間に入れる。日本人もそのネットワークに入っている人がいて、その人がSNSなどで紹介した店、例えば六本木の「鮨さいとう」や神保町から青山に移転した日本料理「傳」などは、自動的に全世界から客や取材が押し寄せてくるんです。だからますます予約が取りにくくなる。

神保町から移転した「青山 傳」。

 昔はグルメガイドといえばミシュランくらいしかなかったけど、ミシュランって対象としてる店がものすごく狭くて、ワインを置いていて、英語が喋れて、高級店しか選ばれなかったでしょう。そこに、B級でもいいし、小さくてもいいし、英語が喋れなくてもいい、とにかくうまけりゃいいみたいな判断基準を持つ「食べログ4.0以上店ホッパー」のような人たちが大量に現れてきた。食べ歩きをしている人たちが組織化されたこともあって、よりお店に殺到するようになった。

大木 堀江さん、『東京最高のレストラン』(ぴあ刊)はもう16年。ミシュランより古いですよ(笑)。うちはプロによる実名評価ガイドなんですが、ある時期から、「あんたらよりインターネットに書いている素人さんのほうが信用できる!」と店に言われ出しました。ところがここ数年「やっぱりプロのほうが確かだね」と、よく言われます。明らかに揺り戻しが起こっている気がしますね。

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堀江 僕が運営している美食アプリ「テリヤキ」の中には、すごく食べ歩きをしていて、ちゃんとレビューを書けるトップクラスのインフルエンサーが数十人いるんですね。そして、この人たちの下に、予約困難な店の予約をするフォロワーたちが数万人規模でいるんですよ。たとえば、「俺、天本の予約取ったけど行きたい?」みたいにちょっと鼻高々で誘ってくるやついるじゃない(笑)。

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斉藤 仲間同士で誘い合うんですか?

堀江 そう。しかも予約料は取られないから、自分の優位性をただで手に入れられるわけです。こういう小金持ちは客単価3~5万円くらいのちょっと高級な店に普通に行ける経済力はもっているけれど、自分で店を見つける情報収集能力はないから、食べログやテリヤキ、その他レストランガイドやインスタなどを使ってインフルエンサーがうまいと言ってる店の予約を何とかしてまず取ることを至上命令と考えている。それが半年後でも1年後でもいいから、まず取って、行けるかどうかとか、誰と行くかは後から考えるんです。

斉藤 それを中心に毎日が回ってる感じになっちゃうんですね。

堀江 彼らは美食が趣味だからいいんですよ。

大木 僕はそれが仕事ですし。

堀江 つまり、小金持ちって一番金の使い方を知らないんですよ。そういう人たちって、たまたま何かが当って小金持ちになってる人が多いんですが、プライベートジェットや別荘を買うほどの金はなくて、だからといって、今は車を買ってもモテない。じゃあ美味しいごはんを食べようとなる。

斉藤 心の隙間を埋めている感じなんですか?

大木 どうなんでしょう(笑)。

堀江 予約の取れない店に行くことが、心の隙間を埋める一つの大きなコンテンツになっているってことですよ。

斉藤 そういう人たちだけで予約が取れない店の予約を取り合ってるってことかなあ。