藤田 そのとおりで、ウイルスが変異しないかは注視する必要があります。現時点では変異は確認されていないようです。
ただ、日本の皆さんに覚えておいて欲しいのは、ウイルスの変異におびえる前にやるべきことがある点です。マスク、手洗い、顔洗い、換気、人混みを避ける、しっかり休養を取る。発熱があって体調が悪いのに無理に出社するようなことはしない。こうした基本的な対策を徹底すれば十分です。結局のところ、ウイルスが変異しようがしまいが、個人にはこれ以上の対策はありません。付け加えるならば、他にインフルエンザなどの病気もあるわけです。新型コロナウイルス肺炎が流行していようがしていまいが、そうした予防の重要性は変わりません。
「肺炎のフェイクニュースが多すぎる」
――中国は1000万都市の武漢を封鎖するなど、史上空前の対策を打ち出しています。おそらく倒産する企業が出るなど経済的なダメージも大きいはずです。そうした犠牲を覚悟してでも強引な対策を打ち出しているのには、公式発表以上にひどい状況があるからではないか。そうした見方をする人もいるようですが。
藤田 確かに驚くような対策が打ち出されていますね。ただ、その背景には中国ならではの事情があることを理解するべきでしょう。中国はもともと人の移動が多い国です。しかも旧正月休み(公式には1月24日から30日までが休み、2月2日まで延長されると報じられている)と重なったこともあって、感染拡大のリスクはきわめて大きい。力ずくでも押さえ込まなければならないという判断になったのではないでしょうか。
強硬策ともいえる封じ込めの手段をとったわけですが、上海在住の私の見たところでは大きな混乱は出ていないようです。旧正月休みで仕事もないので、政府の言うとおりに家でごろごろしている人が多いのではないでしょうか。ヒマなのでスマホばかり見て、肺炎に関するフェイクニュースで過剰な心配をしている……というのはマイナス点かもしれませんね。2003年のSARS流行時には情報がなくて困った人が多かったのですが、今回はフェイクニュースを含めて情報が多すぎて混乱する人が出ています。ツイッターを見ていると、中国の怪しげなニュースをわざわざ日本語に翻訳して紹介している人も多いのが残念ですね。
世界保健機関(WHO)が世界的なリスクは低いと判断したのには一定の根拠があると思います。日本でも中国ばりの強硬的な水際作戦や隔離を行うべきとの意見もあるようですが、そこまでの対策は不要でしょう。適切な注意喚起や健康不良者のサポート、航空便の乗客を追跡できるようにしておくといった措置で十分です。
繰り返しになりますが、中国でこれほど問題化しているのは中国独自の事情という側面が強いのです。
――移動が活発な人口大国という面ですね。