トヨタのヴィッツというクルマの名前をご存知の方は多いと思う。子供の頃のファミリーカーや初めて買ったマイカー、あるいは旅行や出張時にはレンタカーというかたちで、それに乗ったことのある方もいらっしゃるだろう。

なぜ日本だけ「ヴィッツ」だったのか

 その昔、トヨタブランドのエントリーモデルだったスターレットの実質後継として初代ヴィッツが登場したのは1999年のこと。21世紀を担う世界戦略車としてトヨタがゼロから作り上げたこの画期的なモデルは、日本以外の仕向地ではYaris=ヤリスという名で販売されることになった。ちなみにその意は、ギリシャ神話の美の女神「Charis」などをアレンジしたものだ。

東京オートサロン2020にて新型ヤリスを紹介する豊田章男社長 ©AFLO

 なぜ日本がヤリスではなくヴィッツだったのか。それはヤリスなる語呂が日本人の耳感覚に馴染まないという理由だったという。

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 当時は拓銀も山一證券も破綻するどん底の不景気だったとはいえ、トヨタの世界販売に対して日本市場の販売台数はそれなりのプレゼンスがあった時代。ましてや日米貿易摩擦の成れの果てでGMのクルマまで渋々売らされていた国内営業陣の社内での発言力は相当のもので、その彼らが「ヤリスじゃあ客が馴染めない」とでも言えば、誰もノーとは言えなかったことはなんとなく察しがつく。

 その日本専用名称であるヴィッツが21年の歴史に幕を閉じ、この2月10日にフルモデルチェンジとなった新型からはヤリスの名前を用いている。

ヤリスはWRC=世界ラリー選手権の参加車両

 打って変わっての現代的な理由として挙げられるのは、これだけ外国人が日本に訪れる時代に、ローカルネームは馴染まないというものだ。昨年はマツダがアクセラやアテンザといった名前を3や6という数字に変更したが、これもまたワールドネームへの統一を図った事例といえるだろう。もちろん日本市場のプレゼンスも1990年代よりは確実に落ちている。

 加えてヤリスは、欧州を中心に世界各地で行われるWRC=世界ラリー選手権の参加車両という一面も持ち合わせている。こと欧州ではWRCのパブリシティ効果は、F1と肩を並べるほどだ。そしてWRCはこの11月、10年ぶりに日本(愛知・岐阜)で開催される。トヨタ的にはその名を世界統一化するにはちょうどいい機会でもあるだろう。

2017年からはWRCに参戦しているヤリス ©getty

 と、そんなこんなのこの2月、ヤリスとほとんど同じタイミングでフルモデルチェンジを迎えたのはホンダのフィットだ。ちなみにこちらは日米用の車名で、欧州ではジャズという名前で売られている。各仕向地での馴染みぶりをみるに、こちらは名称統一を考えていないはずだ。