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「PCR検査を増やせば医療崩壊」は本末転倒 こっそり方針転換した“コロナ戦略”の盲点

コロナ感染再拡大――徳田安春医師インタビュー #2

2020/07/29
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「感染性」をみるためなら問題はない

徳田 しかし、「防疫」のための検査は別です。感染を広げないためには、その人がコロナにかかっているかどうか診断をつけることよりも、他の人にうつす「感染性」があるかどうかをみることが大切です。その場合、症状がなかったとしても、唾液やのどの粘膜にウイルスが潜んでいるかどうかが重要となります。

 たとえば、もし肺の奥の細胞の中にウイルスが潜んでいて、実際にはコロナに感染しているのに「陰性」と出たとしても、咳などの症状がない無症状者では、防疫上はあまり問題とはなりません。なぜなら咳をしない限り、ウイルスが肺の奥から飛び出て人に感染させることはほとんどないからです。しかし、唾液やのどの粘膜にウイルスがいたら、その人がしゃべったり歌ったりしたときに、他の人にうつしてしまう恐れがあります。

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 このように、防疫を目的とした場合には、唾液やのどの粘膜にウイルスがいるかどうかが重要で、コロナに感染しているのにウイルスが見つからず、診断的に「偽陰性」になったとしても、問題ではないのです。PCR検査を行えば唾液やのどの粘液の「感染性」を直接みることができるので、防疫を前提とした場合には「偽陰性」という概念は消え去るのです。

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 実は、症状があったとしても、「発症して約1週間後にはほとんどが感染力はない」ことがわかってきました。病院に入院するような時期も含めてです。もちろん、重症患者に気管挿管するような場合は、肺の奥からウイルスがエアロゾルとして出てきますから別です。しかし、防疫を考えた場合には、発症して1週間経過したような人を見つけても遅いのです。CDC(米国疾病予防管理センター)も、発症して1週間経った人で直近数日間解熱していれば、隔離を解除していいと言っているくらいです。

増やすべきは「防疫」のための検査

──なるほど、つまり「診断」ではなく、「防疫」のために検査を増やすべきだと主張されているわけですね。

徳田 そうです。我々が主張しているのは、感染能力の高い「スーパースプレッダー」の予備軍を早く見つけて、「追跡・保護・待機」の措置をとってほしい、ということなんです。

 そもそも、症状の強い人がジムに行って筋トレしたり、カラオケにいったり、屋形船に乗ったり、夜の街の懇親会に参加できるわけがありません。スーパースプレッダーの多くは軽症者または発症前か、無症状者で、動けるからこそ感染が広がるのです。検査対象を絞ってしまい、軽症者や無症状者を放置してしまうと、クラスターが発生して広がるのは、むしろ当然のことなのです。