「ソファに手が挟まる」だけで場面を引っ張れる稀有な俳優
――「誰かが、見ている」は、舎人のパントマイム的な動きが、一つの見所になっていますね。
三谷 そうですね。たとえば第一話では、舎人がソファーを運ぼうとして、ソファーの隙間に手が入って抜けなくなってしまう場面があるんです。たかが“ソファーに手が挟まった”というだけのハプニングで、延々その場面を引っ張れる俳優さんがこの世界に何人いるか。とにかく、すごく面白くなったんですが、あのシーン、実は現場で考えたんです。
香取 あーそうですね。
三谷「このソファを使って何かもう一つ面白いことできないかな」って言ったら、香取さんが、「手が挟まるのはどうですか」というアイデアを出してくれて。そこから発展してどんどん抜けなくなって、足も入っちゃうみたいな(笑)。
2人でやりとりしてできたものが、あんなに面白くなるってことがすごく幸せだし、多分あれは、世界中の誰が見ても、どんな世代の人が見ても面白いと思うんです。簡単にやっているように見えるかもしれないけど、本当に挟まっているわけじゃないからね、様々な身体能力を駆使しないとできない。
恋人の指輪のサイズを取るために、口紅で魚拓
香取 はい(笑)。あと、四話だっけ? 恋人の指輪のサイズを取るのに、口紅で魚拓みたいなのを取ろうとして、笑っちゃうところ。あれが僕はすごく好きです。
三谷 僕が脚本に書いた行動は、セリフと違って僕の中のイメージに過ぎないんですが、それを、肉体を使って成立させられる俳優さんは本当に限られていると思うんです。指輪のサイズを測るために、彼女の寝ている指を口に咥えて、その大きさを口で保存して、そこに口紅をつけて魚拓みたいに紙に写そうとする。その直前に舎人は笑っちゃって、またやり直しになるんです。
香取「思わず笑っちゃう」ってことは最初台本には書いてなくて、三谷さんが稽古の最中、口を紙につける直前に「笑っちゃってください」みたいにポロっと言ったんですよ。そしたら、僕のこの三谷さんの言葉を即座に理解できる特殊能力みたいな部分が……。
三谷「あ、こういうことなんだ!」と(笑)。
香取 そう! ビビッと痺れて「こういうことなんだ!」と。
――長い付き合いの中で、お二人の間には目には見えない共通言語があるんですね。
三谷 というか、この方の感性だと思うんですけど。
香取 確かに、あの間は難しいですよね。口の形を紙に写そうとしたら、そんなことに必死になってる自分の現状全てにおかしくなって、笑ってしまう。そうすると、それまで必死でキープしてきた口の形が解けちゃうんだから。