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 公文書館職員の多くは、東京都内の郊外か埼玉、千葉など近県の公務員宿舎に住んでいた。ところが、採用間もない尼子には、都心の渋谷区にある国家公務員宿舎があてがわれていた。元号を担当する内閣官房事務官が「本務」のため、緊急参集に対応できるよう永田町、霞が関へアクセスのいい都心に住んでいたようだ。

存在自体があいまいだった尼子

 公文書館の主要な業務の一つは、一定期間を経た後に各省庁から移管される、歴史的に重要な行政文書を管理・公開することだ。膨大な文書の処理に職員は忙殺される。だが、尼子はこうした業務を免除され、時々「『向こう』に行ってきます」と内閣官房に出かけていた。そんな尼子の姿を、ある元公文書館職員は「存在自体が曖昧な人だった」と振り返った。他の公文書館職員と交流がほとんどなかったのは、「元号の仕事に配慮した人間関係だったのかもしれない」と話す元同僚もいた。

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「特定問題担当」という役職

 証言だけでなく、公文書として尼子の業務を裏付けるものはないか。内閣官房のホームページから行政文書ファイル管理簿を検索すると、内閣官房副長官補室の「併任者出勤状況通知書」という文書を見つけた。この文書を情報公開請求し、入手した。

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 遡れたのは過去約6年分だったが、併任者の担務一覧が書かれたA4の一枚紙には、2013、14、15年に「特定問題担当」として尼子の名前があった。公文書館を退任後も内閣官房で業務を続けていたことがわかったが、「特定問題」とは何なのか。情報公開請求で得た公文書を手に、公文書館OBを訪ね歩く。

 2006~09年に公文書館理事、09~13年に公文書館長を務めた高山正也とは、横浜市近郊の喫茶店で落ち合った。高山にこの公文書を見せて、文書の意味するところを聞いた。

「『特定問題担当』とは何でしょうか。元号の担当官だが、そうとははっきり書けないので、このような表現になっているのでは?」

「そうだと私は理解しています。漢籍の知識が必要になる諸問題が『特定問題』。中でも非常に大きいものとして新元号に関わる問題がある」

 尼子が元号担当だったことが、公文書からも裏付けられた。