セクシュアルマイノリティ、生活保護受給者、性風俗産業の従事者——。マイノリティと呼ばれる存在は、医療とどう関わっているのか。現役看護師が執筆した「医療の外れで:看護師の私が考えたマイノリティと差別のこと」(晶文社)が刊行される。

「社会や医療から排除されやすい人々と医療従事者の間には、単なる愉快不愉快の問題でもなければ、一部の医療従事者にだけ差別心があるといった類の話でもない、もっと根深く、致命的なすれ違いがあるように思います。

 マイノリティや被差別的な属性の当事者が積み重ねてきた背景と、医療従事者が積み重ねてきた背景は、社会の中で生きている意味では地続きのはずなのに、しかしどこかで分断されているような気がするのです。」

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 そう始まる本書の中から、医療不信に陥る患者や家族のエピソードを、一部抜粋・編集して掲載する。(全2回のうち1回目/#2はこちらから)

※病院のエピソードは患者の個人情報の守秘義務上、疾患、背景、シチュエーションなど、個人特定に繋がらない段階まで脚色、改変しています。

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あと数日で退院の予定が

 朝7時の病棟。

 まだ眠気の残る患者さん達がうとうとしている穏やかな時間と対照的に、夜勤の看護師が朝食前に何としてでも終わらせたい採血と抗生剤投与に走り回る中、「おはようございます!残ってる採血全部やります!」と、どこか救世主気取りで登場できる早番の勤務が、私は好きです。

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 その日の早番、出勤した瞬間に、普段と明らかに空気が違うことに気付きました。いつもナースステーションの端に置いてある救急カートが無い。大部屋の方から、当直医と思しき男性が何か指示を出している声が聞こえます。休憩室に鞄を放り出して駆け付けた4人部屋の病室では、夜勤の看護師が患者さんの心臓マッサージをしながら、当直医が患者さんの口から太い管を入れてアンビューバッグ(空気を入れるポンプ)を押して、肺に酸素を送り込む処置をしているところでした。

 肺炎で入院して、あとほんの数日で退院の予定だった、高野さん(仮名)という80代の女性でした。数年前から誤嚥性肺炎(嚥下機能の低下により、唾液や食べ物と共に細菌が気道に入り肺炎を起こす病気。高齢者に多い)を繰り返しており、都度抗菌薬による治療をして自宅に帰り、また肺炎で入院、という生活をしていました。

 夜間に発熱したのをきっかけにみるみる意識がなくなり、呼吸が止まりかけていることから家族に連絡し、「できることは全てやって欲しい」という息子様の希望に沿って挿管に至ると、心臓マッサージを交代した私に、夜勤の看護師が点滴の準備をしながら手短に説明しました。

医療の外れで:看護師の私が考えたマイノリティと差別のこと

 高野さんを個室に移し、人工呼吸器を装着し、1時間後、息子さんが病室に到着しました。息子さんは、病室に案内した私にこう言いました。「昨日まで歩いていて、話していたんですよ。こんなになるわけないじゃないですか。あなた達が変な薬でも盛ったんでしょう」