1ページ目から読む
2/3ページ目

農薬の使用率が多い国ほど発達障害が多い

 なぜ問題かというと、受容体にくっつくというのはホルモン作用と同じで、100万倍に薄めても作用するからだ。ナノグラム(ng=1億分の1g)とかピコグラム(pg=1兆分の1g)といった少量でも変化を起こす。もし人間の受容体にくっつくなら、これまで「農薬はごく少量なら安全」といわれてきた安全性の基準が崩壊することになる。

「ネオニコは哺乳動物の神経には影響しない」と言われていた2012年、環境脳神経科学情報センターの木村-黒田純子氏らが、試験管の中とはいえ、ネオニコがラットの小脳の神経細胞を攪乱することを発見した。

 やがて木村-黒田氏らは、農薬の使用率と、広汎性発達障害の有病率が一致することに注目する。つまり、農薬の使用率が多い国ほど自閉症など発達障害が多いという事実である。もちろん両者の因果関係は証明されていなかったが、相関関係では見事に一致していたのだ。

ADVERTISEMENT

農薬の使用率と自閉症など発達障害には相関関係が… ©iStock.com

 こうした仮説が示されれば、当然、それを実験で試してみようという研究者が出てくる。今ではマウスなどを使った実験が世界各国で行われている。そこからどんな結果が明らかになってきたのか、その一部を紹介したい。

ネオニコが人間の脳に侵入することはまず間違いない

 人間の身体には、血液脳関門と胎盤関門という、物質の移行を制限するゲートのようなものがある。脳組織や胎児の環境を守るためだろうと言われているが、実は、ネオニコはこのどちらも通過してしまうのである。

 脳を通過することはマウスなどの実験でもわかっているが、実際にネオニコを飲んで自殺した人の脳を調べると、血液中のネオニコと同じ濃度が検出されたというから、人間の脳に侵入することはまず間違いないだろう。

 こんな報告もある。生まれて1日か2日目の赤ちゃんの尿を調べたら、なんと、ネオニコだけでなく、体内の酵素と反応して成分が変わった代謝産物も検出されたというのである。胎児には代謝機能はないので、どちらも母親が食べたものが胎児に移行したのだ。

マウスの実験ではネオニコは1時間で親から子に ©iStock.com

 最近は野生のサルが里に下りて来るので、妊娠しているサルの胎児を調べると、しっかりとネオニコが検出される。おそらく里の畑で農薬を使って栽培した野菜でも食べたのだろう。では、母体から胎児にどれくらいのスピードで移行するのかというと、母マウスにネオニコを飲ませて実験したところ、1時間で胎児に移行したというから、胎盤関門はほとんどフリーパスに通過するようである。