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 ここで、ネオニコという殺虫剤は胎盤関門を通過し、脳にも浸透し、脳細胞を攪乱するということを覚えておいていただきたい。

マウス実験でも示されたネオニコと自閉症の関連性

 さらにこんな実験がある。マウスにごく少量のネオニコを食べさせ、壁のない通路と壁のある通路を十字に組んだ迷路に置いた。通常、マウスは好奇心が強いから、壁のない通路にも出ていくのだが、このマウスは出ていかない。不安なのだ。まるで自閉症のような行動である。また別の種類のネオニコを食べさせると、動作が激しくなって落ち着きがなくなる。多動症のような行動で、人間ならADHDと診断されるかもしれない。

ネオニコはマウスにも発達障害に似た症状を引き起こす可能性が ©iStock.com

 

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 どうしてこういう行動をとるのかよく分からないが、考えられる理由として、脳に浸透したネオニコが、脳の神経伝達に何らかの影響を与えた可能性がある。農薬の使用量と自閉症の有病率が比例しているのは、こうした実験結果を考慮すれば、単なる推測ではないことが分かるだろう。

 ここで、こんな状況を想定する。

 妊婦が、農薬が残留した野菜を食べる。よくあることだ。数時間以内に胎児へ移行するが、その一部は胎児の脳にも侵入する。生まれた胎児は、やがて発達障害の兆候を見せる――。

 あり得ないことではない。

各国でネオニコの使用を制限。一方で日本は……

 ネオニコは腸内細菌叢をも変える。これも疾病に関わっていることが分かり始めた。腸内には1000兆個といわれる細菌がいて、私たちの生命活動に大きな影響を与えているが、例えば免疫細胞の7割は腸の消化管にいて、これを活性化しているのが腸内細菌であることもそうだ。

 ところが、ネオニコは炎症を抑える菌など善玉菌を減らして悪玉菌を増やすことは実験でも明らかで、これが自己免疫疾患やアレルギーにつながっているのではないかと言われているのだ。新型コロナで重症化した人の腸内細菌を調べると、悪玉菌や日和見菌が多かったそうだが、もしかするとそれまでの食生活が影響しているのかもしれない。

一人一人の自己防衛が必要かもしれない ©iStock.com

 ネオニコと疾病との関わりが明らかになるにつれ、EUをはじめ、各国でネオニコの使用を制限するようになり、フランスなどは登録された5種類すべてを禁止したほどである。

 この流れは加速する一方なのに、なぜか日本は、ネオニコの残留基準値を上げて使用を増やすという逆方向に走っている。

 最近は病気も自己責任と言われる時代である。国がこの状況を変えないなら、私たち一人ひとりが自己防衛するしかないだろう。