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「阿部定」が無意識に人をひきつけ続ける理由

 阿部定と阿部定事件は今でもテレビに登場するなど、人々の間にひそかな関心が保たれている。

 清水正・編「阿部定 学生と読む阿部定予審調書」(1998年)は、日本大芸術学部教授の著者が1989年から10年間、授業で学生たちに調書を読ませ、その感想リポートをまとめた本だ。そこには、60年以上前の猟奇事件とその「ヒロイン」から感じ取った思いがつづられている。

「なんて正直に生きているんだろう」「刹那を生きた人」「一瞬を永遠にしたかった」「究極の愛の形の一つにすぎなかった」「寂しい女性だと思えてきた」……。

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「伝説」になった犯人・阿部定(戦後撮影) ©文藝春秋

 1人の女子学生は、定を援助交際をしている現代の女子高生(JK)と比較してこう書いている。「おそらく、阿部定という女性が現代でもなおクローズアップされるのはそこだろう。今一番元気のいい女子高生とクロスするからこそ、私たちは無意識に(定に)ひかれるのだ」。

 当たっているかどうかは別だが、愛とは何か、死とは何かは時代を超えた永遠のテーマであり、阿部定事件はそれを強く考えさせる出来事だった。

【参考文献】
▽細谷啓次郎「どてら裁判」 森脇文庫 1956年
▽粟津潔・井伊多郎・穂坂久仁雄「昭和十一年の女 阿部定」 田畑書店 1976年
▽内村祐之・吉益脩夫「日本の精神鑑定」 みすず書房 1973年
▽堀ノ内雅一「阿部定正伝」 情報センター出版局 1998年
▽戸川猪佐武「素顔の昭和 戦前」 角川文庫 1976年
▽池島信平「雑誌記者」 中央公論社 1958年
▽加太こうじ「昭和犯罪史」 現代史出版会 1974年
▽下川耿史「昭和性相史 戦前・戦中篇」 伝統と現代社 1981年
▽清水正・編「阿部定 学生と読む阿部定予審調書」 D文学研究会 1998年
▽森長栄三郎「史談裁判」 日本評論社 1966年