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コロナ禍で起きた医療への大きな変化…看護師が綴った「医療が差別に晒される時」

著者は語る 『医療の外れで』(木村映里 著)

『医療の外れで』(木村映里 著)晶文社

 病院には、様々な属性を持つ人々がやってくる。看護師6年目の木村映里さんは、自身も摂食障害、うつ病、ナルコレプシーなどいくつかの病を抱えながら、日々仕事と向き合っている。医療者でもあり患者でもある立場から、医療のさまざまな場面でどうしたら「傷付ける人/傷付けられる人」という関係性が生まれるのを止められるのかを考えながら綴られたのが本書だ。多忙の中、看護師と執筆活動を両立させる原動力はどこにあるのだろうか。

「看護師の仕事が忙しすぎて、せっかく頭に様々な医療や学術的な知識が入っていても、心が追い付いてこないんです。それを整理するために書いているところがあります」

 学生時代、木村さんはいわゆる水商売のアルバイトをしながら学費を稼いでいた。看護師になり、立場による社会的信用度の落差を感じる場面も多いという。

「友人がDV被害を警察に訴えに行く時に付き添ったことがあるのですが、最初は、若い女の2人連れだったからでしょうか、高圧的な態度を取られました。それなのに、私が看護師をしていると言ったら、急にピシッとした態度になった。ひどい話ですよね。資格職の信用ってこういうことなんだな、とも感じました」

 本書には「生活保護」「性風俗」「セクシュアルマイノリティ」「性暴力」「依存症」「医療不信」など9つのテーマが設けられ、医療現場における差別、患者側の本音、当事者としての自身の経験などが綴られている。現場からの誠実なレポートとも、当事者研究とも、エッセイとも、多様な読み方ができる一冊だ。

「よく、誰しもマイノリティの要素を持っている、と言われることがありますが、私自身はそういうわけではないと感じます。良くも悪くも、マイノリティのことなど想像もつかないような人たちはいると思う。マイノリティの要素って、一つあると重なりやすくなると感じます。例えば私の場合、ナルコレプシーが原因でうつ病になったと思いますし、摂食障害もそこに関係しています」

 大学卒業後、最初に就職した病院でうつ病になったが、転職した病院の環境は肌に合っていた。

「医療はチームの仕事なので、一人ではできない。そこの人間関係が良いのがありがたいです。自分の『居場所』がある、と思えることも大事ですね」

木村映里さん

 世界的なコロナ禍で、医療の現場の疲弊が叫ばれている。そこで大きな変化を目の当たりにしたことが、9章「医療が差別に晒される時」に綴られている。

「これまではどちらかといえば、医療者が患者に対してどうしても差別してしまう、と感じていました。でもコロナ禍で、急に差別される側になってしまった。人々がGoToなどで出かけていってコロナにかかってしまった時、本人は責任を取れない。それを負うのは我々医療現場の人間です。色々な政策や意見を見ていると、時々、人として扱われていない感じがします」

 それでも、看護師の仕事を一生続けたいという。そのためには健康であることが必須。摂食障害により空腹を感じることが難しいため、意識して食事を取るようにしている。

「勤務している急性期病棟は、とてもやりがいがあります。主体的に関われる、仕事に責任がある、ということで、逆に生かされているような気がします。妊娠や出産でキャリアが途切れない仕事でもあります。看護職は、フェミニズムとも切り離せません。今後はそういったことも書いていきたいと思います」

きむらえり/1992年生まれ。日本赤十字看護大学卒。2015年より看護師として急性期病棟に勤務。17年に「看護教育」で「学生なら誰でも知っている看護コトバのダイバーシティ」を1年間連載。本作が初の著書。

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